共同研究「カタストロフィと人文学――東日本大震災以後の人間・自然・文明
(首都大学東京・学長裁量経費プロジェクト2012-13年度)


2011年、日本社会は震災・津波・原発という、人類史上初の三重のカタストロフィ(破局)を経験した。カタストロフィ(catastrophe)はギリシア語源では「転覆」を含意するが、日本社会は「3・11」によってまさに転覆し、大きな転換期を迎えた。こうした災害に際して、自然科学や社会科学の研究者は具体的かつ実効的な支援や活躍をしてきた。人間の精神的活動を探究する人文学は、カタストロフィを前にして、いかなる学問的貢献ができるのだろうか。破局的状況は、人間と自然、人間と文明、人間と歴史といった諸限界が露わになり、それらの概念や現実が根本的に再考される歴史的契機であるが、本研究の目的は、主に人文学の文献や理論、実地調査にもとづいて、カタストロフィと人間の関係を根本的に問うことである。これまで人間はいかにカタストロフィを表象し、解釈してきたのか。カタストロフィに見舞われた被災者たちの苦痛をどう受けとめればいいのか。破局的な出来事をくり返さないために、私たちはいかにリスクを避け、破局を歴史的教訓としていかに記憶すればいいのか。国内外の研究者との学術的な連携を展開しつつ、カタストロフィ後の人間像を見据えて、私たち自身の救済や希望の方途を人文知の遺産のなかに探る。

研究組織
西山雄二(研究代表者/首都大学東京・フランス文学/現代フランス思想・文学)
岡本賢吾(首都大・哲学/論理学の哲学、数学の哲学、情報の哲学)
高桑史子(首都大・社会人類学/海洋(海事)人類学、南アジア研究、南西日本研究、島嶼人類学)
綾部真雄(首都大・社会人類学/文化人類学、東南アジア大陸部地域研究、少数民族とエスニシティ)
左古輝人(首都大・社会学/社会科学の概念史・概念分析)
山下祐介(首都大・社会学/都市社会学・農村社会学・環境社会学)
野元弘幸(首都大・教育学/社会教育学、多文化教育学、外国人住民の学習権保障)
荒木典子(首都大・中国文学/中国語法史・語彙史)
山本潤  (首都大・ドイツ文学/中世ドイツ語学文学)
赤塚若樹(首都大・表象文化論/映像文化、比較文学、表象文化論)
小林康夫(東京大学・共生のための国際哲学教育研究センター(UTCP)/現代哲学、表象文化論)
藤田尚志(九州産業大学/フランス近現代思想)

研究計画予定 (西山の演習「カタストロフィの思想」と連動して実施される)
4月 2012年度の研究活動に向けて体制を整備。研究分担者と意見交換。
5月30日(水) 映画「無常素描」上映・討論会(首都大)
東日本大震災の状景をいち早くカメラに捉えたドキュメンタリー映画「無常素描」(大宮浩一監督作品)を上映し、大震災と学術をめぐる問いを浮き彫りにし、教員、学生、市民のあいだで積極的な討論をもうける。
7月18日(水) Gisèle Berkman氏(国際哲学コレージュ副議長)による国際セミナー「カタストロフィの哲学」を首都大にて開催
7月23日(月) 東北大学にてGisèle Berkman氏の国際セミナー「カタストロフィの哲学」を開催(主催:東北大学国際文化研究科)
12月上旬 Zoran Dimic氏(セルビア・ニシュ大学)による国際セミナー「カタストロフィと人文学」を首都大にて開催
3月中旬 国際会議「カタストロフィと人文学」をパリ・日本文化会館にて開催
パリ・国際哲学コレージュ(CIPh)と東京大学・共生のための国際哲学教育研究センター(UTCP)、国際交流基金との共催。
フランスからは、ストラスブール大学名誉教授Jean-Luc Nancy(哲学)、詩人Michel Deguy、パリ第八大学教授Fethi Benslama(精神分析研究)、国際哲学コレージュ副議長Gisèle Berkman(文学研究)、イギリス・オックスフォード大学のMike Holland(文学研究)が参加。日本からは、西山雄二、佐古輝人、小林康夫、藤田尚志が参加。
3月 共同研究の成果をProceedingsとして刊行