2014年度

(前期)人間と動物(水曜5限・フランス語圏文化論A)




 「人間と動物」「人間対動物」「人間かつ動物」──かくも単純に映るこの対比は、人間が動物の一種であるがゆえに複雑な問いを孕んでいる。人間はいかなる類の動物なのか、動物一般とはいかなる点で区別されるのか。動物には理性がなく、本能しかない。魂がなく、精神がない。言語を使用せず、状況に反応するだけだ。死の観念がないので、宗教をもたない……等々。動物は人間の否定形によって規定され、人間中心主義的な遠近法によって表現されてきた。また同じ論理にしたがって、人間は同じ人間を動物として扱い、人間的秩序から追放しもしてきた。特定の人間が理性を欠いたとみなされ、動物以下の有害な「獣(けだもの)」と呼称され、容赦なき迫害に遭うことがあるのだ。
 人間は動物の一種であるが、同時に、人間は動物から人間自身を区別する。人間は動物とは一線を画すけれども、同時に、特定の人間を動物並みに、さらには動物以下に扱い卑下する。人間と動物の境界線は極めて曖昧で恣意的なままにとどまり、むしろこの厚みのある境界線によってこそ、私たち人間は動物を表現し、想像し、解釈し、規定してきたと言える。本演習では、時代と場所の異なる多種多様なテクストを読解しながら、動物と人間の表象や思想、倫理から見えてくる風景を旅することにする。

本演習を受講するあなたは、哲学、倫理学、文学、歴史学、民俗学、政治学、宗教学、芸術、動物行動学、生物学などの多様なテクストの読解を通じて、主にヨーロッパと日本における動物論を渉猟することになる。人間と動物の境界線を辿ることで、その境界線の手前で生きもの一般の条件を問い、「動物とは何か」「人間とは何か」という問いの輪郭を自分なりの仕方で得ることがあなたには期待される。

前期は「動物の文化的表象」、後期は「動物の倫理的思想」という大主題をもとに多数の小主題に即して、動物と人間の関係を文化的・思想的・倫理的な角度から順次討議する。

動物の文化的表象
5/7 初回ガイダンス
5/14 院生の研究発表:動物と人間の歴史
5/21 熊の形象:川上弘美『神様』『神様 2011』
5/28 アメリカ出張のため休講
6/4 矢野智司『動物絵本をめぐる冒険』1・2・3章
6/11 矢野智司『動物絵本をめぐる冒険』4・5・6章
動物の擬人化=擬人化した動物などを主人公に、教訓や風刺を織りこんだ寓話とはいかなる類の表現方法なのだろうか。
6/18 池上俊一『動物裁判』講談社現代新書
人間世界に災厄を及ぼすとされた動物たちはいかに善悪の境界、有害と無害の境界に立たされるのか。
6/25 瀬戸口明久『害虫の誕生――虫から見た日本史』ちくま新書
7/2 ハイデガー『形而上学の根本諸概念』創文社
「石には世界はない」「動物は世界貧乏的である」「人間は世界形成的である」という命題をめぐって、動物の哲学的考察が展開される。
7/9 ジル・ドゥルーズ『本能と制度』序
7/16 日高敏隆『人間はどういう動物か』ちくま学芸文庫
7/30 高鳥直士さん(生命科学専攻・助教)によるセミナー「人間と動物」

参考書
金森修『動物に魂はあるのか──生命を見つめる哲学』中公新書、2012 年。
エリザベート・ド・フォントネー『動物たちの沈黙──“動物性”をめぐる哲学試論』彩流社、2008 年。

(前期)「人間・文化・社会」(月曜4限)


総合テーマ「人間と動物」
「人間とは何か?」という問いに対して、これまでしばしば動物との差異が援用されてきた。「人間は政治的動物である」「人間は理性をもつ」「人間は言語を用いるが、動物は単なるシグナルを発するだけ」「人間だけが道具を製作し、使用する」「人間は社会を構築するが、動物は本能的に群れているだけ」「人間だけが道徳を洗練させる」「人間は死を経験し概念化するが、動物は息絶えるだけ」等々。人間はどの程度まで動物なのか、あるいは、いかなる点で人間は動物とは決定的に異なるのか。こうした問いによって自然と文化の境界が浮き彫りになり、また逆にその謎が深まるだろう。「人間と動物」という主題は、私たちの知の全領域──学生のみなさんが大学で学ぶ専門領域全般──を貫く重要な主題である。「人間と動物」をめぐるさまざまな問題系をめぐって、人文社会系の各分野の教員が順番にオムニバス形式で講義をおこなう。

第1回 ガイダンス
第2回「人間=死すべき運命を知ってしまった動物?──存在脅威管理理論とその実証」沼崎誠(心理学)
第3回「ヒトは名前をどう理解しているか」松阪陽一(哲学)
第4回「ヒト、動物、機械──想像力のdemiurgicな伝統」吉田朋正(英語圏文化論)
第5回「動物の象徴性―ヨーロッパ古代・中世文学を題材に」山本潤(ドイツ語圏文化論)
第6回「人になった動物/動物になった人──変身譚の源流」平井博(中国文化論)
第7回「日本古代文学と動物──関係はつくりえたのか?」猪俣ときわ(日本文化論)
第8回 中間まとめ
第9回「古代人の言語と動物たちの鳴き声」浅川哲也(日本語教育学)
第10回「西欧中世の動物観――中世人は動物とどう付き合ったか」河原温(歴史・考古学)
第11回「めだかの学校、人間の学校」西島央(教育学)
第12回「動物を使って人間を表象すること」小田亮(社会人類学)
第13回「動物と人の違いをめぐるドイツ哲学的人間学の思考伝統――社会システム論のルーツにはネオテニー概念がある」宮台眞司(社会学)
第14回「人間としての健康で文化的な生活と社会福祉」矢嶋里絵(社会福祉学)
第15回 まとめ

(前期)ジャック・デリダ『グラマトロジーについて』読解(水4限・フランス語圏文学演習)



1960 年代、ジャック・デリダは、西洋の歴史のなかで構築されてきた現前の形而上学、ロゴス中心主義、自民族中心主義を根底的に読みかえる「脱構築」を提唱した。「脱構築」の論理や戦略は哲学のみならず、文学、精神分析、政治思想、建築、ジェンダー論などの分野にまで広まりました。デリダが2004 年に他界してから10 年、本演習では主著『グラマトロジーについて』の第一部を精読することで脱構築思想の理解を深めます。

第1 回 ガイダンス(担当教員・西山は4月中はフランス・リヨンにて招聘研究をしています。したがって、本演習の初回は5 月のゴールデンウィークが明けて5 月7 日からになります。)
第2-4 回 第1 章「書物の終焉とエクリチュールの開始」
第5-10回 第2 章「言語学とグラマトロジー」
第11-14回 第3 章「実証科学としてのグラマトロジー」
第15回 まとめ

ジャック・デリダ『根源の彼方に グラマトロジーについて』(上巻)、足立和浩訳、現代思潮社、1972 年。
De la grammatologie, Minuit, 1967; Of Grammatology, trans. Gayatri Chakravorty Spivak, Johns Hopkins Univ Press, 1976.

(後期)人間と動物(水曜5限・フランス語圏文化論B)




前期は「動物の文化的表象」、後期は「動物の倫理的思想」という大主題をもとに多数の小主題に即して、動物と人間の関係を文化的・思想的・倫理的な角度から順次討議する。

動物の倫理的思想

10/8 初回ガイダンス
10/15 院生の研究発表
10/22 J.M. クッツェー『動物のいのち』「哲学者と動物」
10/29 J.M. クッツェー『動物のいのち』「詩人と動物」
11/5 学祭のため休講
11/12 肉食の思想:鯖田豊之『肉食の思想――ヨーロッパ精神の再発見』I-IV章
11/19 中村生雄『日本人の宗教と動物観――殺生と肉食』8-65頁、144-192頁
11/26 菜食主義の論理:宮沢賢治「ビジテリアン大祭」
12/3 ダリン・テネフ氏(ブルガリア・ソフィア大学)セミナー
「猫、眼差し、そして死」("The Cat, the Look, and Death")
12/10 講師海外出張のため休講
12/17 バーバラ・J. キング『死を悼む動物たち』草思社
1/7  高鳥直士さん(生命科学専攻・助教)の実験室訪問
1/14 ダナ・ハラウェイ『犬と人が出会うとき 異種協働のポリティクス』
1/21 まとめ

参考書
伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』名古屋大学出版会、2008 年。
エリザベート・ド・フォントネー『動物たちの沈黙──“動物性”をめぐる哲学試論』彩流社、2008 年。