上級マクロ経済学』と『パースペクティブ』 補追のぺージ


このページ(http://www.comp.tmu.ac.jp/wakitaweb/pers/pers.htm)では大学院並びに学部上級で行う『上級マクロ経済学』の講義要項と共に、拙著『マクロ経済学のパースペクティブ』の本文中に書き損ねたこと、本文中に紹介したモデルに関する新しい論文などを紹介するつもりです。『マクロ経済学のパースペクティブ』本文の誤植について、ならびにマクロ経済の現状については学部学生向けの別ペ-ジを参照してください。


授業出席者(2009年度)への連絡

暫定ノート ライフサイクル仮説から、動学モデルへ、 数学補論
日本経済理解のマクロ的枠組み  市場をつなぐマクロ経験法則 
いずれ最適成長理論世代重複モデル 新ケインジアン経済学 のノート(要パスワード)を使用しますので、ダウンロードして読んでおいてください。


上級マクロ経済学講義要項

以下は「上級マクロ経済学」の予定である。本講義はミクロ経済学・計量経済学と共に近代経済学専攻の修士課程1年生の基礎科目として必ず履修することが望ましい。なお講義では

教科書 脇田成 (1998) 『マクロ経済学のパースペクティブ』 日本経済新聞社.

に基づき、能率良く現在のマクロ経済学を展望し、計算問題の宿題を課す。なお以下の三分野の準備の不充分なものは、必ず先立って補充しておくこと。

[a] 学部レベルのマクロ経済学 [b] 初歩の線形代数・微分と多変数関数の最大・最小など静学的最適化問題など経済数学
[c] 学部レベルのマクロ経済学と大学院レベルのマクロ経済学の断層については、良く指摘されるが、その理由の一つとして学部教育での「不確実性と情報の経済学」の欠落がある。期待効用・絶対的危険回避度・相対的危険回避度・逆選択・モラルハザード・合理的期待(予想)などの言葉がよくわからない者は以下の文献等で補充することが望ましい。

本講義には以上三分野の初歩の理解が必須である。これらの準備の不十分なものは、上記の学部レベルの教科書により、などで講義に先立って補充すること。


▼▼▼ 学部レベルのマクロ経済学と大学院レベルのマクロ経済学では、テレビを見ることと作ることぐらい違うと認識すること。 ▼▼▼

◆ さらに参考書として

を購入し、講義と並行して読むことを薦める。本来、大学院ではプロの共通言語として、英文教科書を読破することが望ましい。しかし他にも英文で読まなければならない文献は山ほどあるはずのなので、ここでは邦文教科書を挙げておく。(つまり英語と数学は絶対必要ということである。)

◆ なお細かい参考文献は教科書ならびに本ぺージに若干、解説を加えている。また最低限のリストはJSTOR等よりダウンロードすること。

◆ 質問は授業中の他、電子メールあるいは紙に書いて提出することが望ましい。なお質問の他、教科書・講義ノートの間違いやミス・プリントの指摘、コメントなどを歓迎し、成績に考慮する。
◆ 「上級マクロ経済学」 受講者への指示

2回目の授業までに、
をダウンロードし目を通しておくこと。

目次 ■

第1章 日本経済とマクロ経済学
◆ 基本的
動学モデル
第2章 新古典派最適成長理論
第3章 リアルビジネスサイクル
第4章 世代重複モデル
◆ 主体部分均衡
分析と実証分析
第5章 家計の通時的最適化と消費関数の理論
第6章 企業の通時的最適化と投資関数の理論
ここの諸モデルは実証分析が盛んな分野
◆ 各市場の
新しい分析
第7章 ニュー・ケインジアン・エコノミックス: 財市場における不完全競争と名目価格硬直性
第8章 契約とサーチの理論: 労働市場と実質賃金硬直性の理論
第9章 貨幣と信用の諸モデル: 金融仲介ならびに国際金融
マクロ経済学の諸モデルを生産物・労働・金融の市場別に展望する。第7章ではケインジアン経済学の新しいモデルを概観することにもなる
第10章 内生的成長理論
補論 非定常時系列
  割愛したトピックス

■ 最低限のリーディング・リスト ■

教科書は日本語だが、(当たり前だが)英語の論文を読めるようにならなくてはならない。

第2章

Ramsey, F. (1928) "A Mathematical Theory of Savings," Economic Journal 38-152, 543-559. JSTOR
Dorfman, Robert, (1969) "An Economic Interpretation of Optimal Control Theory," American Economic Review 59-5, 817-31. JSTOR
King, R. G., and Rebelo, S. T., (1993) "Transitional Dynamics and Economic Growth in the Neoclassical Model," American Economic Review 83-4, 908-31. JSTOR

第3章

Prescott, E. C., (1986) "Theory Ahead of Business Cycle Measurement," Carnegie-Rochester Conference Series, 25, 11-44. FRB Minneapolis

第4章

Diamond, P. A., (1965) "National Debt in a Neoclassical Growth Model," American Economic Review 55-5, 1126-50. JSTOR
▼ Gale, David, (1973) "Pure Exchange Equilibrium of Dynamic Economic Models," Journal of Economic Theory 6-1, 12-36.

第5章

Hall, R. E., (1978) "Stochastic Implications of the Life Cycle-Permanent Income Hypothesis: Theory and Evidence," Journal of Political Economy 86, 971-87. JSTOR
Lucas, R, E, Jfur., (1978) "Asset Prices in an Exchange Economy," Econometrica 46-6, 429-45. JSTOR
Mace, Barbara, J., (1991) "Full Insurance in the Presence of Aggregate Uncertainty," Journal of Political Economy 99-5 928-56. JSTOR
▼ Mehra, R., and Prescott, E. C., (1985) "The Equity Premium: A Puzzle," Journal of Monetary Economics 15, 145-61.
McGrattan, Ellen R.; Prescott, Edward C. (2003) Average Debt and Equity Returns: Puzzling?, American Economic Review, 93-2, 392-397.

第6章

Hayashi, Fumio., (1982) "Tobin's Marginal and Average q: A Neoclassical Interpretation," Econometrica 50, 213-24. JSTOR
Dixit, Avinash, K., and Pindyck, Robert, S, (1994) Investment under Uncertainty, Princeton University Press.
Kahn, James A., (1987) "Inventories and the Volatility of Production," American Economic Review 77-4, 667-79. JSTOR
ポール・ミルグロム/ジョン・ロバーツ著 奥野正寛他訳 (1997) 『組織の経済学』 NTT出版.

第7章

Akerlof, G. A., and J. Yellen, (1985) "A Near-Rational Model of the Business Cycle Model with Wage and Price Inertia," Quarterly Journal of Economics, 100, 176-213. JSTOR
Blanchard, O. J., and N. Kiyotaki, (1987) "Monopolistic Competition and the Effects of Aggregate Demand," American Economic Review, 647-66. JSTOR
Blinder, Alan S., (1991) "Why are Prices Sticky? Preliminary Results from an Interview Study" American Economic Review 81-2, 89-96. JSTOR
Dixit, Avinash K. and Stiglitz, Joseph E., (1977) "Monopolistic Competition and Optimum Product Diversity," American Economic Review 67-3, 297-308. JSTOR

第8章

Rosen, S., (1985) "Implicit Contracts: A Survey," Journal of Economic Literature, 1144-75. JSTOR
Mortensen, Dale T. (1986) "Job Search and Labor Market Analysis," in O. Ashenfelter and R. Layard, (eds.) Handbook of Labor Economics 2, 789-848, North-Holland. [配布済]

第9章

Lucas, R. E. Jr., (1980) "Equilibrium in a Pure Currency," Economic Inquiry 18, 203-20.
Carlstrom, Charles T. and Fuerst, Timothy S., (1997) "Agency Costs, Net Worth, and Business Fluctuations: A Computable General Equilibrium Analysis," American Economic Review 87-5, 893-910. JSTOR
Bernanke, Ben, Mark, Gertler and Simon, Gilchrist, (1998) "The Financial Accelerator in a Quantitative Business Cycle Framework," NBER Working Paper No. 6455.


第1章 動学的マクロ経済学の発展と日本経済

◆ マクロ経済学概観

◆ IS-LM分析の限界

◆ 新古典派マクロ経済学を理解する二つの寓話

◆ 実務家のマクロ経済学とアカデミックなマクロ経済学 (覚書)

近年のマクロ経済学の状況を概観したものとして、いくつかの論文があります。またケインジアンの立場からIS-LM分析やマンデル=フレミング・モデルの有用性を主張した論文にBlanchard (1997 AER) や Blinder (1997 AER) などがあります。また先頃出版されたクルーグマンの単行本も修正マンデル=フレミング・モデルについての解説です。

マクロ経済学では短期と長期の間がよく問題となるところです。以下の論文はこれらを議論しています。

以下のLucasの論文は新古典派からのマクロ経済学のとらえ方です。
動学モデルからのIS-LM分析再解釈です。

以下の本はアメリカの代表的な経済学者10人ヘのインタビュー集です。題名とは少し違って、同書では広範囲の論題を扱っています。

以下のディキシットの本は初学者には難しいと思うが、現在の経済学の直面している複雑さ・難しさを表していると思われます。

以下はサージェントらの新しい教科書です。

◆ 日本経済の諸特徴に関する参考文献補追 日本経済に関する参考文献を上記リンクでは記載しています。網羅的なものではないことに注意。


第2章 最適成長理論と時間を通じた選択

アロー・ドブリュー経済の理解: ミカンとリンゴを同時に買うのが静学的最適化問題、ミカンを買ってからその後でリンゴを買うのが動学的最適化問題だが、ミカンを買うときに同時にリンゴの先物市場が開かれているのがアロー・ドブリュー経済、と考えれば理解しやすい。

最大値原理や位相図などのより詳しい解説は

などを参照のこと。また教科書として

も分かりやすそうです。内生的人口成長の下での効率性を検討したものとして以下のものがあります。


第3章 RBCモデルの基本構造: 新しい景気循環の理論

以下は天井・床型景気循環理論についての新しいモデル

◆ 新しい景気循環の統計的モデル

◆ 以下にはRBCのプログラムが含まれています。

◆ 非定常時系列を定常時系列に変換するフィルターはHPフィルターが一般的でしたが以下の論文のBand-Pass Filtersも近年良く使われています。

◆ 以下は最新の展望論文・興味深いトピックス

◆ 以下はスティグリッツの「国家の役割の再定義」の論文が含まれています。網羅的なので整理に役立つでしょう。

ESRI,ESRI Discussion Paper No.67 -1970−98年における部門別生産性と日本の経済成長:JIPデータベースに基づく実証分析−

第4章 世代重複モデルと高齢化・少子化

ブランチャード型連続世代重複モデル: 本書での記述は不完全・不充分ですが、指数分布等を使ってモデル化する例として目的関数が記述してあります。

◆ 45度線と安定性の図が良く使われますが、図中の矢印の解説については139ページ5行目からも参照してください。

◆ 世界ならびに日本についての世代会計についての論文は全文が日銀よりダウンロード可能です。

◆ 賦課方式から積立方式への移行については以下の新しい論文があります。

◆ 私は社会保障を合理的な主体の最適化行動からのみとらえるのは無理があると思っています。「非合理」な経済主体と社会保障については以下の新しい論文があります。

◆ 日本の年金改革については以下を参照のこと

◆ 学部マクロのリンク集 少子高齢化と社会保障


第5章 消費と資産価格: 高すぎる株式収益率のパズル

◆ Equity Premiumが減少・消滅したという主張の論文
システミックリスクの問題と Too big to failの問題を考察しています。 他にも

現在、日本の所得分配の不平等化が問題となっています。近代経済学の議論の中心はクロス・セクションの不平等度の変化の時間的推移ですが、以下の社会学的研究はより構造をとらえたものです。


第6章 企業と投資関数:タイミングを決める理論

◆ 日本の株式市場の特徴 岩田より

日本の株式市場は、欧米の株式市場と比較していくつかのきわだった特徴を持っている。たとえば、

  1. 個人の株式保有比率が低く、企業間の株式持合い比率が高いこと
  2. (1)と関連して、市場で取引されている株式の流動性が低く、特定の株式の売買回転率の高いこと
  3. 株式市場の取引において、ブローカーとしての証券会社が優位であって、マーケット・メーカーとして質の高い機関投資家が不足していること
  4. 証券会社は免許制度の下で営業しており、自由な参入が制約されていて、手数料も固定されていること
  5. 株式市場の構造としては、証券会社のなかでも4社(野村、日興、山一、大和)の市場支配力が大きく、野村證券を中心としたガリバー型寡占市場に近いこと
  6. 日本の企業の配当性向が他の先進国と比較して際立って低いこと
  7. 政府の株式市場に対する直接介入が、しばしば行政指導を通じて行われていること

    といった特徴をあげることができる。

岩田一政 (1993) 「日本の株式市場のアノマリーと市場改革」 貝塚啓明・原田泰編『90年代の金融政策』日本評論社(郵政研究所研究叢書).

Economic Analysis of Social Interactions NBER W7580


第6章補論 交渉と契約のゲーム理論: マナちゃんとアップルパイ

いくつかの日本語で読める参考文献を挙げておきます。


第7章 新ケインジアン経済学と協調の失敗: 透明な市場は創出できるか

すみません肝心のMankiwの論文の出所が教科書では抜けていました。

以下の小さな本は新ケインジアン経済学について要領よくまとまっています。

新ケインジアン経済学の諸モデルの前提、含意についてはいくつか再検討がなされています。下記の論文はMankiwのモデルによるケインジアン的な結果が必ずしも効用を増加させているわけではないことを指摘しています。

以下の論文は収穫逓増や市場支配力などの新ケインジアン経済学のモデルの構成要素について比較検討しています。

下記の論文はRotemberg and Woodfordのモデルによるケインジアン的な結果は収穫逓増から得られていることを指摘しています。

以下の論文は近年の近合理性の分析です。

実務家のマクロ経済学とアカデミックなマクロ経済学が大きく異なるのは教科書本文中に述べたとおりです。しかし、ケインジアンの仮定する名目価格硬直の仮定は、少なくとも第一次近似としては正しいように感じられます。たとえばバブルを考えてください。マネーを増やしたのに物価が安定し、資産価格のみが上昇したことが分かります。

それでは、これまでのケインジアンの仮定でいいのでしょうか。私の考え方は少し違います。名目価格硬直を独占的競争企業のレベルから説明する(第7章)のではなく、家計の選択時点で生産物に需要が増加しないため、名目価格硬直が結果的に生じるのだ、と考えています。これらは「制限された参加者モデル」(第9章)や「予備的貯蓄動機」(第5章)の考え方に近いものがあるように思います。

* こういった考え方の論文を見つけました。 Cook, David, (1999) "The Liquidity Effect and Money Demand," Journal of Monetary Economics 43-2, 377-90.


第8章 契約とサーチの理論: 高給料-高失業のパッケージ

くじ引き均衡について批判的かつ包括的なモデルは

下記の本は組合契約のモデルに詳しい。


第9章 貨幣と信用の理論: 日本のバブルの物語

金融仲介をRBCに組み込んだ新しいモデルです。Bernanke et. al.はさらに名目価格硬直性も盛り込みAD-AS分析との連関も図っています。

以下は最適課税理論をもとに新古典派の政策分析を展望した論文です。最適課税理論だけではマクロ経済政策は捉えられませんが、考え方の整理にとても有益なのでAbstractも付けておきます。

以下はインフレーション・ターゲティングをもとにした金融政策の新しい統合化の主張

以下はCIA制約のモデルでさまざまなタイミングを考え、Fiscal Theory of Price Determinationを考えたモデル

以下はCIAの包括的モデル


The Optimal Degree of Discretion in Monetary Policy

「制限された参加者モデル」の要は借りた人だけがトクをすると言う点のモデル化ですが、これは通常の一般均衡モデルでは正当化は難しいものです。なぜなら、借りればトクならば、皆がいっせいに集まっているという想定の一般均衡モデルでは、皆が借りてしまうからです。その結果、「制限された参加者モデル」では、市場の参加に外生的な制約を加えているわけです。

以下の論文も参照して下さい。

日本のバブルと失われた10年 ドキュメント&ノンフィクション


◆ 国際金融

以下はオープンエコノミーモデルの2つのパズルを指摘し、国際貸借の履行の難しさにより解決を主張

上記の論文で言う国際マクロ経済学の6つのパズルとは・・・・

1 フェルドシュタイン=ホリオカの貯蓄投資パズル
2 マッカラムの貿易のホームバイアスパズル
3 フレンチ=ポテルバの証券投資のホームバイアスパズル
4 バッカス=キーホー=キッドランドの消費相関パズル
5 国際価格パズル(ロゴフのPPPパズル)
6 為替レート変動パズル(メイシー=ロゴフの為替レート予測パズルとバクスター=ストックマンの為替レートレジーム中立性パズル)

ホームバイアスパズルについては以下の岩田・上田氏執筆の第6章も参照


第10章 内生的成長理論: ますます富める国と貧しいままの国

内生的成長理論の数学的モデル: 非凸性の存在のもとで、最適成長モデルや世代重複モデルの以下の様々な純理論的・数学的な性質
(1) 維持可能性(Sustainability)
(2) 動学的効率性(Dynamic Efficiency)
(3) 不確定性(Indeterminancy)
(4) カオスやサイクルの可能性(Monotone Property)
(5) 成長の負の側面
や鞍点均衡などが成立するかどうかを再検討することも盛んである。


計量経済学補論 : 非定常時系列分析


割愛したトピックス

以下は教科書「マクロ経済学のパースペクティブ」では割愛したトピックスである。時間の許すかぎり講義を行うが、自由参加とする。

◆ カオスと複数均衡

カオスと分岐の理論 Day,Benhabib-Nishimura, Gradmont Multiple Equilibria and Sunspot

◆ マクロ経済政策分析とゲーム理論


経済分析用ソフトウエアなど