『マクロ経済学のパースペクティブ』

日本経済新聞社刊


東京都立大学経済学部

脇田成

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日経金融新聞『行間を語る』 (1998・8・12)

 マクロ経済学は混迷していると言われている。しかしこれは本当だろうか。マクロ経済学が混迷しているように見えるのは、マクロ経済が『どのように動いているのか』という問題と、『どのように対応すべきなのか』という問題を混同してきたからである。
 ISーLM分析に代表される入門的レベルのマクロ経済学では、前者の問題を中心として考察している。そこでわが国では数年に渡って金利を引き下げ、公共事業の積み増しを計る伝統的なマクロ経済学の処方箋が実行されてきた。
 しかしこのようなケインズ政策は短期的な効果しか持たない『カンフル注射』であると認識されつつある。それでは現在のマクロ経済学はやみくもにカンフル注射しか打てない藪医者なのだろうか。実は現在のマクロ経済学では、より広い見地から、さまざまな状況を考察することが既に可能となっている。
 新しいマクロ経済学のポイントを一言でまとめるならば、賃金や利子率、為替レートは価格の一つであると言うことだ。これらの価格がさほど動かない、硬直的であると、ISーLM分析のように仮定することは、『どのように動いているのか』という問題の解明のためには正しい。しかしモノの価格を下げろと命令すれば、売り手が困るように、際限のない低金利政策は預金生活者の困窮をもたらす。また不況期に公共事業を積み増すことは、産業構造を歪め、建設業に依存した地域経済を生み出してしまう。このように伝統的なマクロ経済学の処方箋から行われる金融財政政策は長期的な資源配分の効率性をに目をつむっているため、『マクロ経済政策がどうあるべきか』という問題に一面的な解答しか与えないのである。
 時間を通じた最適化に基づいた新しいマクロ経済学はもともと数学的に難解であり、また理解のためには幅広い知識を要求される。そこで本書では直観的なストーリーでもって、幅広く新しい議論を紹介している。麻雀でリーチをかけるタイミングをオプションの経済理論で解明すればどうなるのか? 上級生が下級生を殴り続けるような悪い状況がマクロ経済で繰り返されることはないのか、その答は本書の第6章と第4章を読んで頂きたい。


目次

第1章 動学的マクロ経済学の発展と日本経済
・ マクロ経済の成長と循環
・ IS-LM分析とフィリップス曲線: 実務家のマクロ経済学
・ 日本のマクロ経済とマクロ経済学
・ 日本の新古典派的成果とケインジアン的特徴: 新古典派対ケインジアンという対立は万能か

第2章 最適成長理論と時間を通じた選択
 ・ クルーソーの選択と3つのヴェール
 ・ 動学的最適化問題とは何か: 逐次決定問題
 ・ 1セクター最適成長モデルの問題設定
 ・ 有限期間・離散時間最大化問題による最適成長モデル
 ・ 移行過程と位相図
 ・ 分権的成長経路の最適性
 ・ 最適成長モデルの拡張と疑問
 ・ マクロ経済学の学習のための基本的参考文献
 ・ 補論 動的計画法(Dynamic Programming)

第3章 RBCモデルの基本構造: 新しい景気循環の理論
 ・ 台風に襲われたロビンソンのモデル
 ・ 景気循環の統計的特性
 ・ 景気循環理論の発展
 ・ 新古典派合理的期待景気循環モデル
 ・ 離散型Ramsey型最適成長モデル
 ・ インパルスとしてのソロー残差
 ・ 効用・生産関数の特定化
 ・ 動学システムの近似と数値計算
 ・ RBCモデルの基本的な問題点
 ・ 批判は本当に有効なのか
 ・ 補論 「土木国家」日本の財政再建

第4章 世代重複モデルと高齢化・少子化
 ・ 上級生はなぜ殴り続けるか
内容紹介
 ・ 世代重複モデルの基礎・・・なぜ使われているのか・・・
 ・ 世代重複モデルの概要・・・交換モデル サミュエルソン・タイプとクラシカル・タイプ
 ・ 生産を考慮したDiamondモデル
 ・ 動学的効率性・バブル・利他的遺産 Tirole Model)
 ・ 世代重複モデルと王朝モデル (Barroの利他心モデルとBlanchardの連続型世代重複モデル)
 ・ 世代重複モデルの応用分野
 ・ 日本の高齢化・少子化と社会保障:年金と政治経済学
 ・ 補論 差分方程式の安定性
 ・ 補論 分岐とカオス

第5章 消費と資産価格: 高すぎる株式収益率のパズル
 ・ Hallのランダム・ウォーク消費関数モデルとオイラー方程式の推定
   Precautionary Savings & Aggregate Insurance
 ・ Lucasの一般均衡資産価格モデル・・・対数正規分布の活用と解析解・乱高下と分散制約
 ・ 株式価格プレミアム・パズル(Equity Premium Puzzle)
 ・ 効用関数の拡張
 ・ 集計問題と不完備市場

第6章 企業と投資関数:タイミングを決める理論
 ・ 企業の価値と投資行動: MM定理と企業財務
 ・ 設備投資理論 (乗数-加速度モデルと二階差分方程式, Tobin’s q, 投資と不確実性
 ・ ヒステレシス効果とタイミングの投資モデル
 ・ 在庫投資のモデル
 ・ カンバン方式と日本の在庫変動
 ・ 日本の企業統轄体制
 ・ コラム: ウィーナー過程・伊藤のレンマ
 ・ 補論 交渉と契約のゲーム理論: マナちゃんとアップルパイ

第7章 新ケインジアン経済学と協調の失敗: 透明な市場は創出できるか
 ・ 新ケインジアン経済学の一般的構造: 協調の失敗と戦略的補完性
内容紹介
 ・ Mankiwの乗数モデルと財政政策
 ・ 名目価格の硬直性とBlanchard-Kiyotaki Model (近合理性)
 ・ 価格調整のダイナミックス  時間依存ルールと状態依存ルール
 ・ 名目価格はなぜ硬直的か? -Blinderのサーベイ調査
 ・ カウンターシクリカル・マークアップの理論
 ・ 暗黙の共謀モデル
 ・ 取引外部性・サンスポット・複数均衡とDiamondのサーチ・モデル
 ・ コラム ポワソン分布

第8章 契約とサーチの理論: 高給料-高失業のパッケージ
 ・ 暗黙契約理論(Rosen)
 ・ くじ引き均衡・労働保蔵とRBCモデル (Rogerson, Presscott and Townsend
 ・ 組合交渉とインサイダー・アウトサイダー・モデル(McDonald-Solow, Espinosa-Rhee)
 ・ 多部門モデルとサーチ理論(Mortencen)
 ・ 効率賃金モデル (Solow, Shapiro-Stiglitz)
 ・ 雇用流動化と専門職市場: 日本の労働市場への含意

第9章 貨幣と信用の理論: 日本のバブルの物語
 ・ 貨幣の社会的機能: 物々交換と信用
 ・ 貨幣需要のモデルと景気循環 貨幣とマクロ・モデル,現金制約
 ・ 貨幣供給・金融仲介と流動性 金融政策の伝播経路 銀行貸付けと流動性のモデル
 ・ 貨幣の超中立性と貨幣的成長理論 Samuelson, Tobin, Sidrauski
 ・ 日本のバブルの物語: 資産価格インフレーション
 ・ 補論 為替レート決定の均衡アプローチ

第10章 内生的成長理論: ますます富める国と貧しいままの国
 ・ 経済成長に関する定型化された事実と新古典派成長モデル
 ・ 内生的成長理論の諸モデルAK Model,外部性と内生的技術進歩・特化の経済性
 ・ 少子化と内生的人口成長(Barro-Becker)

計量経済学補論 : 非定常時系列分析内容紹介