20世紀後半に急激に拡大した我が国では,急増した人口に均等な公共サービスを提供することを目標に多くの公共建築物が整備されてきました.この公共建築物ストックは,これからの地域の資産としての役割が期待されています.しかし,近年の我が国の社会の急激な変化による公共施設への需要の変化に,このストックは対応しきれていません.このため,ストックの物理的劣化に加えて,機能的劣化,社会的劣化,制度的劣化が生じています.たとえば,急速な少子高齢化によって高齢者施設の需要が急増し,学校などを転用しても需要に応えきれない状況が生じています.また,成熟情報社会の進展で利用者のニーズも多様化し,公共施設に求める機能も計画時のものとは異なってきたことへの対応は困難です.
このような劣化に対する従来からの対策である公共建築物の増設や建て替えは,今や財政的にも環境負荷の観点からも困難です.また公共建築物の安易な建て替えは地域のアイデンティティの破壊につながるとの指摘もあります.
通常,自治体の公共施設の管轄・管理は,自治体内部の組織毎にそれぞれ独自に行われ,施設で生じるニーズの変化や機能の拡充は,管理する施設群の中でのみ調整を図ろうとしています.拡充が必要とされる機能をみたす部屋が他の組織が管理する施設の中に空いていたとしても,それを的確に判断し活用できないのです.このため、ニーズの変化への対応は、それを満足する施設をある組織が新たに「所有」することで達成されてきました。「無いから造ろう」という考え方です。その結果、各自治体は大量の公共施設を所有しながら,柔軟な活用が困難な状況に陥っています.自治体の保有する公共施設群全体を視野に入れた評価・調整システムが存在しなければ,それらを真に有効に活用できません.
そこで,我々の研究チームは,自治体が保有する公共施設群全体をターゲットに,既存の施設を機能(Function),立地(Location),建物(Building)の観点から評価・整理し,利用者ニーズや自治体の方針に適合する公共施設ネットワークシステムを構築する必要性を提案しています.このシステムは既存公共建築物の長寿命化と柔軟な更新を図るとともに,既存の建築物の特性を考慮した転用や複合化によって継続的に適切な公共施設サービスを提供できる時空間ネットワーク、自己恒常型地域公共施設ネットワークを指向しています.
研究対象地域として,東京都多摩市を重点的に取り上げました.多摩市は,多摩ニュータウン開発に伴う多くの公共施設を有しています.本プロジェクトでは,多摩市所有の公共施設126施設をデータ化しデータベースを構築し,施設配置,施設(貸室)利用特性,施設の物理的特性,施設運営管理費,利用者需要,等の分析を行い,包括的な公共施設サービスネットワークの再構築を提案しました.
プロジェクトは,ファシリティマネージメント(FM),都市計画,建築計画,等の専門分野で活躍する研究者からなる、建築学を横断するチームで多角的な検討を行いました.