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多種の公共施設ストックの横断的な把握

1.公共建築物ストックを横断して公共サービスを配置する

 我が国では,時代の要請に応じた制度のたびたびの変更拡充とともに,多種の地域公共施設が互いに近く建設されました.たとえば東京都多摩市では,多摩ニュータウンの建設に伴い,多数の地域公共施設が建設されました.このなかには,コミュニティセンターが7カ所ありますが,それ以外にも類似の機能を持った施設が,近くに存在します.
 この地域公共施設の転用に対しては,補助金の返還など制約がありました.しかし,この制約は撤廃されつつあり,公共建築物ストックを包括的に捉え直して,地域公共施設サービスを再配置する可能性が開かれようとしています.

2.地域需要,利用距離,ストックの位置を配慮する

 地域公共サービスは年齢別に需要が異なるため,将来推計人口から将来需要が予測されます.また,利用距離が長くなると利用率が減少することを距離減衰と呼びますが,サービスの種類,年齢によってその様相は異なります.
 多摩市においては,総人口の減少と少子高齢化の進行が予想されています.高齢者にとっては,自動車移動が困難になるだけでなく徒歩移動可能な範囲も小さくなり,距離減衰が激しくなって日常的な生活圏が縮小します.特に多摩ニュータウン地域は丘の上にあるので,傾斜が高齢者の徒歩移動に与える影響は無視できないことがわかりました.また児童数の減少は,小中学校の廃校や空き教室の増加をもたらします.さらに総人口および生産年齢人口の減少は,地域公共サービスへの需要も税収も減少することを意味するので,新規施設の建設よりも既存ストックの活用が実際的です.
 これらを勘案しつつ,コミュニティセンターの貸室への将来需要を,将来人口推計と,現在の年齢別需要と距離減衰の様態から予測した結果を示します.すべての需要に完全に対応することは困難なので,満室が発生する確率を一定以内に押さえることを前提としました.すると,ホールへの需要だけが,既存のコミュニティセンターだけではまかないきれないことが判明しました.ホールを追加する場合の最適立地点は☆で示されています.近くに小中学校の廃校舎がある場合には,それが活用できます(D,E).廃校舎がない場合には,空き教室を保有する小中学校への併設が考えられます(h,j). 

3.残すべき建築物を相対的立地も含めて評価する

 需要と税収が減少する場合には,転用だけでなく,重要な建築物を残して他を閉鎖する可能性もあります.この時,残すべき建築物を老朽度など建物単体だけから評価するのは問題です.周囲に需要が多い場合や,代替可能な建築物がない場合には,老朽度が高くても重要性が高いといえます.逆に近くに類似施設があれば,閉鎖も可能です.図には,これらを考慮した最適閉鎖施設案の例を示しています.
 また施設を順次閉鎖する場合,その時々で閉鎖施設を決定した場合と,将来の施設配置を見通して閉鎖施設を決定した場合とでは,最終的な施設配置が大きく異なることがあります.このことに配慮した長期的計画が求められます.

高齢者の増加→日常的な生活圏の縮小

丘陵地形と加齢による体力の低下をを考慮した施設の徒歩利用圏の評価

徒歩圏の縮小により,今まで日常的に利用していた施設への到達が困難になる
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児童数の減少→小中学校の余剰空間の増加

小中学校の廃校舎・空き教室を利用した新たな集会施設の設置

新規建設投資を行う際には,周辺の廃校舎・空き教室の再活用を考える必要もある
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総人口の減少→税収・総需要の減少

財政・総人口減少問題に対応する保有施設の最適な閉鎖計画

閉鎖対象とする施設の決定や,さらに将来像を見据えた閉鎖順序を決める必要がある
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