プロジェクト概要利用者ニーズ公共施設ストック物理的キャパシティネットワークの創成
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公共施設の物理的キャパシティの把握

1.「所有から利用へ」のパラダイムシフト

 これまでの自治体は,地域住民の新たなニーズに,新築あるいはスクラップアンドビルドで新たな施設を「所有」することで対応してきました.しかし,財政状況や資源問題を考えると今後も同じようには行かないことは明らかです.そこで,現在ある施設を何とか「利用」するという考え方が求められるようになり,そのためには,その施設の活用の可能性を詳しく把握する必要が生じています.

2.利用向上のために既存空間の状況を把握する

 公共施設内の既存空間は利用目的にあった形で構成されています.例えば,利用目的Aに必要な面積,あるいは利用目的Bに必要な性能などからそれぞれの空間が造られています.ここでいう利用目的とは,地域住民のニーズと置き換えられますが,決して1つの目的に1つの空間という対応関係にはなりません.つまり,1つの空間は複数の目的に対応できるように造られており,目的の変化に対応可能な空間のつくりをしていれば,その空間の利用度は向上することになります.
 多摩市の公共施設の全てについて,既存空間の造られ方,特に空間のヴォリューム(面積や天井の高さ),およびしつらえ(空間内部の仕上げのされ方)に着目し,複数の施設における既存空間の傾向を見たところ,類似したヴォリュームで同じしつらえを有する空間が51室該当しました.さらにこれらの空間の利用目的を表す部屋の名称には21種類の室名が見られ,部屋の名称のみでは空間の同質性が全く想像できないものもあります.逆に,同じ部屋の名称でも,ヴォリュームやしつらえが大きく異なる場合もあります.一般の利用者は,部屋名称から空間の特性を把握することしかできませんので,この結果から,部屋の名称の抱える問題が利用者の利用機会を減ずることにも繋がっていることがわかります.同一の施設にある異なる名称の部屋でも,空間ヴォリューム・しつらえが同じであることが示されていれば,利用者はそれらの部屋の使用に互換性があることがわかります.また,新たな利用目的への対応の幅も拡がり,施設の利用向上の効果が期待できると考えます.  

3.既存空間のキャパシティデータを蓄積する

 老朽化した施設を改善する方策としてメンテナンスがありますが,メンテナンスは物理的な改善のみを対象とすることが多く,さらに現状復帰が原則となります.先述した利用向上のための対策では,ある程度の機能向上が必要となり,従来のメンテナンスでは不十分です.しかし,機能向上にも限度がありますから,各空間の利用に関わるキャパシティ(空間を構成する様々な物理的要素量)を捉える必要があります.既存空間を変更する際に必要な改修内容は,どうしても変更後の理想型を追い求める余り,過剰になりがちです.その結果としてコストアップを招き,断念せざるを得ないというケースが起こるのではないでしょうか.既存空間のキャパシティをどのようにアップするのか,つまり既存空間と新たな空間との差違を定量化することにより,空間再編の意思決定をより客観的に行うことができるでしょう.

グラフ

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