2016年度文学イベント: クレメンス・J・ゼッツ氏 朗読会

首都大学東京ドイツ語圏文化論教室では、来日している作家さんを本学へ招待して、文学イベントを開いています。

2016年11月に本学にいらっしゃったのは、オーストリアでもっとも精力的に作品を発表している作家のひとり、クレメンス・J・ゼッツ(Clemens J. Setz)さんです。

学生・院生はこの日のために手分けをして、朗読箇所の日本語訳をし、一般向けの配布資料を作成したり、勉強会をひらいて作家や作品について知識を深めたりと勉強を重ねてきました。

今回の朗読作品は、2015年にでた最新作なのですが、なんと1000ページを超える超大作。実際に朗読していただく箇所はわずかなのですが、いろいろな障碍をもつ人たちが暮らす施設に勤務する個性的な介護士を中心に描かれており、一見、脈絡のないように思われる(でもよく考えたら深い意味があるのではないかと思われる)テキストに翻訳担当者は振り回されました。

そして始まった朗読会。ゼッツさんの訛りのない美しいドイツ語で、すらすらと朗読は進みました。
質疑応答では、自分とまったく違う女性の主人公を描くことについてや、翻訳でわからなかったところ、施設をどのように取材したか、などが学生から聞かれました。

ゼッツさんは、それまでの小説ではずっと自分について書いてきたけれど、今回はわざわざ違う人物を設定して書いたこと、狂気と正常な人間の間に境はないと考えていること、施設にはZivi(兵役免除のための労働奉仕)で長期間お世話になったこと、さらにそこで生まれて初めて人の生き死ににまざまざと触れ、そこから初めて作家になろうと思ったことなどを話してくれました。

個性的な登場人物に加えてさまざまなコミュニケーションツール、デジタルデバイスが飛び交う不思議な小説ですが、どんなに狂気を感じる人物でも描写にリアリティと親しみが感じられるのは、ゼッツさんのZiviの体験があってこそなのだと参加者は深く納得したのでした。

その後はいつも通り懇親会でさらに質問を受けていただきました。

一、二年前から習い始めたばかりのドイツ語で、現役の作家と直接話をする、という初めての体験にドキドキしている学生も多いなかで、ゼッツさんにはひとつひとつ丁寧に質問に答えていただき、サインにも快く応じていただきました。
おかげさまで、現代オーストリア文学の一面を知る大変よい機会となりました。ゼッツさん、本企画にご協力いただいたオーストリア大使館文化部の皆様、ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。

(助教・犬飼)

BACK