21世紀に入って、2003年のKEK-BelleグループによるX(3872)粒子の発見をはじめとして、世界の加速器実験でX, Y, Z, Pcと呼ばれる新しいハドロンが相次いで発見された。これらは、通常のハドロンであるメソン(2クォーク)やバリオン(3クォーク)とは異なるクォーク構造をもっており、エキゾチックハドロンと呼ばれている。X, Y, Z, Pcの正体として、テトラクォーク(4クォーク)あるいはペンタクォーク(5クォーク)である可能性や、2つ以上のハドロンが集まったハドロン分子的状態である可能性が議論されている。しかし、その性質の詳細については未だ分かっていないことが多く、実験と理論の両面での研究のさらなる発展が期待されている。X, Y, Z, Pcは重いクォーク (チャーム・ボトム) をフレーバー成分として含むことが大きな特徴である。そこで「重いクォークの大きな質量」および「重いクォークのスピン対称性」に着目して、X, Y, Z, Pcエキゾチックハドロンとチャーム原子核を舞台として生成反応や質量スペクトロスコピーなどのハドロン物理の基本問題を考えたい。
この講義の構成は以下の通りである。第一部は、イントロダクションとしてハドロン物理の基本的な事項を整理する。第二部は、重いクォークの基本理論である「重いクォークの有効理論」を構築して、重いクォークの基本的な対称性である「重いクォークのスピン対称性」を導入する。第三部は、実際に観測されたX, Y, Z, Pcの観測方法や理論的解釈について紹介する。第四部は、新しいハドロン多体系としてチャーム原子核について議論する。
今年CERNのLHCb実験グループによって二つのチャーム(cc) をもつバリオンXicc (ダブルチャームバリオン) が観測された。一般的に系に重いクォークが数多く含まれるほど系が安定になると予想される。今回のダブルチャームバリオンの発見は今後のマルチチャームハドロンの研究の大きな礎を与えることになるだろう。マルチチャーム系において、通常のバリオンやメソンだけではなくエキゾチックなハドロンの存在の可能性が議論されてきた。本研究では、ひとつの可能性としてTcc (udcbarcbar)メソンを取り上げる。Tccメソンの質量スペクトロスコピーをダイクォークモデルとハドロン分子モデルに基づいて議論して、電子-陽電子衝突実験や重イオン衝突実験における生成可能性について議論する。
通常のハドロンは、3つのクォーク (qqq、バリオン) またはクォーク-反クォーク対 (qqbar、中間子) で構成される。ところが、いくつかのハドロンはqqqや qqbarの配位では説明できず、エキゾチックな構造を持つと期待されている。
2個のハドロンが束縛状態をつくるハドロン分子状態も、そのようなエキゾチックな構造のひとつである。このハドロン分子状態を識別する物理量として、最近「複合性」という物理量が(再)提案された。複合性とは、2体状態波動関数のノルムであり、1と比べることによりその状態に分子的成分が多いかどうかを調べられる。
本セミナーでは、2体状態波動関数とそのノルムである複合性が散乱振幅の共鳴極の留数から得られること、それらは自動的に規格化されていること、を解説する。また、ハドロン-ハドロン散乱を記述する有効模型において、ハドロン分子状態候補の複合性を実際に計算する。
ハドロンは陽子や中性子など、クォークから構成される粒子で現在までに数百種類のものが知られています。それらは見える物質(暗黑物質の反対)質量の99%以上を占めます。その基本法則は量子色力学のたった1行の数式(ラグランジアン)で書かれるにもかかわらず、クォークと真空が強く結合することから、質量や力が環境(エネルギーや密度など)の影響を強く受け変化します。さらにクォークがハドロンに閉じ込められ単体で取り出せないことと相まって、その性質を調べることには困難が伴います。このような状況に対して、20世紀にはクォーク模型といういわばハドロンの標準模 型が確立され多くの現象が説明されてきました。ところが、21世紀に入り、それでは 説明できないハドロンが、世界の高エネルギー粒子加速器実験によって相次いで発見さ れてきました。現在それらの粒子はエキゾチックハドロンと呼ばれ、テトラクォーク(X, Y, Z など)、ペンタクォーク(Θ、Pc など)に分類され、その素性を明らかにする研究 が精力的に行われています。
本講義では、ハドロン物理学の歴史を概観し最近の実験観測状況を紹介したのちに、 それらの現象を理論的に調べていくための道具立てとしての、クォーク模型、対称性な どのテーマを中心に進めていきます。最後に最近の研究として、J-PARC で計画されて いる、チャームバリオン内のクォークの動きを突き止める実験研究に対応する理論研究 の最新の結果について紹介します。
ハドロンは陽子や中性子など、クォークから構成される粒子で現在までに数百種類のものが知られています。それらは見える物質(暗黒物質の反対)質量の99%以上を占めます。その基本法則は量子色力学のたった1行の数式(ラグランジアン)で書かれるにもかかわらず、クォークと真空が強く結合することから、質量や力が環境(エネルギーや密度など)の影響を強く受け変化します。さらにクォークがハドロンに閉じ込められ単体で取り出せないことと相まって、その性質を調べることには困難が伴います。このような状況に対して、20世紀にはクォーク模型といういわばハドロンの標準模型が確立され多くの現象が説明されてきました。ところが、21世紀に入り、それでは説明できないハドロンが、世界の高エネルギー粒子加速器実験によって相次いで発見されてきました。現在それらの粒子はエキゾチックハドロンと呼ばれ、テトラクォーク(X, Y, Zなど)、ペンタクォーク(Θ、Pcなど)に分類され、その素性を明らかにする研究が精力的に行われています。この談話会では、ハドロン物理の最近の状況を紹介し、上記の問題解決にむけ現在どのような議論がなされつつあるかについて紹介します。
ポーラロン(フレーリッヒ型)はイオン性(極性)結晶(=誘電体)におけるフォノンをまとった電子(素励起)のことである。Lee Low Pines (LLP) 理論は、ユニタリ変換と変分法によって、ポーラロンを記述する(BCS理論に似ている)。LLP理論はもともとポーラロン1つを対象に定式化されているが、本研究ではこれを一般的にポーラロン多体系に拡張し、相互作用するポーラロン多体系の有効ハミルトニアンを得る。この拡張したLLP理論を一様な冷却原子系BECにおけるポーラロン(ポーラロンの類似物)に適用し、他の理論と比較しながら我々の結果を紹介する。また、トラップポテンシャルによる離散系に対する応用も紹介する。
トラップ原子を用いたボソン・フェルミオン混合多体系は、近年実験室系で実現可能になっている。本研究では、特にボソン・フェルミオン間相互作用が引力の時のボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を、相互作用の強さに関して、議論する。ボソン・フェルミオン間相互作用が弱いときは、凝縮すべきボソンがわずかに擾乱を受けてBECに影響を受ける。また、強くしていくと、束縛状態である複合フェルミオンの自由度が生じ、ある臨界相互作用においてBECの臨界温度がゼロになると期待される。これと同時に、フェルミオンを媒体とするボソン・ボソン間有効相互作用は引力になることが分かっており、これは、ボソンのセクターが存在する場合、ゼロ温度では力学的不安定性を生じさせる。この不安定性とBECを同じ有限温度量子多体系の手法で記述したい。
最終更新日:2019年5月13日