研究室紹介
研究紹介

本研究室では、原子核・ハドロン物理の理論的研究を行っています。
主な研究テーマは

です。以下に詳しい説明が記載されています。

  • ハドロン構造と動力学の研究

    原子核を構成する陽子や中性子、あるいは、核力を媒介するπ中間子など「強い相互作用」をする粒子を総称して「ハドロン」と呼びます。量子色力学(QCD)が「強い相互作用」の基本理論として確立して以来、ハドロンの構造や動力学を、下部構造であるクォークとグルーオンのレベルの力学の反映として、理解することはハドロン物理の基本的課題の一つとなっています。本研究室では、多種多様に存在するハドロンやその励起状態の構造と動力学を、カイラル対称性やフレーバー対称性の観点から系統的に研究するとともに、新たなハドロン状態の予言やハドロン相互作用の素過程を解明することを目指しています。

    メゾン・バリオンの動力学とハドロン励起状態

    ハドロンの低エネルギーでの性質はカイラル対称性とその動的破れによって支配をされています。また、クォークの質量差に起因するフレーバー対称性の破れは、ハドロンやその励起状態の動力学の多様性の源になっています。近年、国内外の実験施設でハドロンやその励起状態の性質に対する数多くのデータが得られ、詳細な議論が可能になってきています。ハドロンの励起状態を散乱振幅で記述する方法は、直接実験と比べてハドロンの性質を議論できるので注目されています。その方法によって、最近、Λ(1405)励起状態は二つの状態の重ね合わせで記述されることが指摘され、話題を集めています。また、カイラル対称性の観点から、バリオンやその励起状態を分類し、カイラル対称性のバリオンスペクトルへの影響も議論されています。

    エキゾチックハドロン

    陽子や中性子などのバリオンは最小で三つのクォーク、中間子の場合はクォークと反クォークの一つずつで構成されています。本来、強い相互作用の基礎理論であるQCDは、多クォーク状態を禁止するわけではありませんが、長年の間、それらの多クォーク状態を発見することができず、ハドロン物理の謎となっていました。しかしながら、近年、それらより多い数(4個,5個)のクォーク・反クォークで構成された新しいタイプのハドロン(エキゾチックハドロン)が発見されたとの報告が相次ぎ、理論的にも実験的にもその性質の解明が急がれています。また、ハドロンを構成要素とするハドロン(ハドロン複合状態)も理論的に議論され、候補となるハドロンが実験的に見つかったりしています。我々は、エキゾチックハドロンをQCD和則、ハドロン多体系の有効模型などを用いて、理論的に存在の可能性を検討し、新しいエキゾチックハドロンの予言を行っています。エキゾチックハドロンの構造の研究は、クォーク多体系の理解へのひとつの重要な基礎を与えています。

  • 原子核中のハドロン

    ハドロンを原子核中に生成することで、自然界には存在しない「原子核」を作ることができます。例えば、ストレンジネスを持ったバリオンを含む原子核(ハイパー核と呼ばれます)や中間子を原子核中に持った中間子原子核等、様々なハドロンと原子核の系が考えられています。近年、これらの「風変わりな」原子核を実験でも生成し詳細なデータが取られています。理論的には、そもそもそのような原子核が存在するのか、原子核中に入ったハドロンの性質は真空中のものと較べてどのように変わるか、などの興味がもたれています。また、原子核中でのハドロンの性質を調べることは、環境によるQCDの真空構造の変化やそれに伴うハドロンの性質の変化の理解へつながります。

    原子核中でのハドロンの性質

    ハドロンは、原子核中にある時など外部環境が変化すると、真空中に孤立している時と異なる性質を示します。そのような性質の変化は、π中間子原子やK中間子原子(電子の代わりに中間子を原子軌道に束縛させたもの)などの深い束縛状態を調べたり、η、ω、σ中間子などを原子核中に生成させる反応のスペクトルなどによって知ることができます。また、ベクター中間子の質量変化、シグマ中間子のチャンネルでのスペクトル関数、核子のカイラルパートナー(負のパリティの核子)の核媒質中での性質の変化も盛んに議論されています。特に、最近は、QCDにおける量子異常効果と関連して、核物質中のη‘中間子の性質について精力的研究が進められています。我々は、環境の変化によってハドロンの性質がどのように変わるかを調べています。

    「真空」の変化とカイラル対称性の部分的回復

    原子核中でのハドロンの性質に対する現象論的な考察を系統的に積み重ねることにより、その背後にある「強い相互作用」の普遍的な性質、つまり「QCD真空」の変化を調べることができます。原子核内での「QCD真空」の変化は、カイラル対称性の部分的回復に起因します。動的に破れたカイラル対称性は、高温、高密度の環境下では回復すると考えられおり、核密度程度でも対称性が部分的に回復し、その効果によってハドロンの性質が有意に変化すると予想されています。我々は、そのような核媒質中での「QCD真空」の変化の検証方法を探求し、原子核を舞台にしたクォークの自由度の直接的な現象の解明を目指しています。これらの研究は、QCD真空の相構造の理解に対する基礎的な研究としても注目されています。

  • 量子多体系としての原子核の構造の研究

    原子核はまず核子(陽子・中性子)の多体系として観測されるが、核子数や励起エネルギーの変化に伴ってその性質は著しく変化する。原子核の励起には、密度やスピンの振動など各種音波や回転運動など古典的にも解釈可能な現象がみられるが、これらは量子多体系のコヒーレントな運動である。このような原子核の静的構造や動的性質を、核力の働くフェルミ粒子系の多体問題として研究している。とくに核子スピンに関る現象は原子核内での中間子の役割とも関連しており、重要な研究対象である。また、原子核の励起スペクトルの統計的ふるまいは量子的カオス現象の典型例であることが知られており、これを手がかりに非線形力学系としての原子核の研究も進めている。

  • 極低温原子気体の静的・動的性質の研究

    20世紀の終わりに近くなって有限な量子多体系の研究に新たな流れが加わった。磁気を利用したポテンシャルに原子気体をトラップして極低温に冷やすことにより、ボース・アインシュタイン凝縮を実現したのを始めとして、21世紀に入っては長年の課題であった超伝導(超流動)系のBCS/BECクロスオーバー現象を実現するなど、画期的な発見が続いている。とくに重要なのは原子間共鳴を外部磁場によってコントロールすることにより、原子間の相互作用を自在に操る実験技術が確立されたことである。これによって、完全な理想気体から強相関多体系までをこの原子気体系で実現することができ、原子核・ハドロンから物性物理にいたる多体系にも大きく寄与する道が開かれた。本研究課題については、ボース・フェルミ混合原子気体の静的・動的性質、安定性、分子形成、超流動、相変化などさまざまな現象を、原子核・ハドロン物理で培った手法を発展させて研究している。

最終更新日:2019年5月13日