生物学A野外講義(2008年8月11日~12日)
日程:2008年8月11日-12日
時間:
場所:伊豆大島
一般教養科目:生物学A野外講義
一般教養科目:生物学A野外講義
教養科目「生物学A」(担当教員;黒川・岡本)の一部が8月11日、12日の1泊2日で伊豆大島において実施されました。受講生5名のうち都合により大島には不参加の1名(学内での講義を別途実施)を除く4名が参加しました。
大島到着後、先ず大島海洋国際高校にて岡本が海と生命の誕生、進化についての講義を行なった後、実際の海、山をフィールドとした野外講義が実施されました。(写真左)受講生の一人の感想を本人の許可を得て全文掲載いたします。受講生の感想文より
生物学A野外講義を受講しての感想(理・地理 C.S.)私はこの野外実習を受けることができて非常に満足している。久しぶりの大島であったし、ふだん見られない奇妙な生物たちやのびのびした自然と触れあえて、実に心身ともリフレッシュした。また生物学科ではないが生物を研究対象としている専攻の私にとって、生物の諸様相の一端を垣間見ることができて、生物に対する認識をさらに新しくすることができた。
まさか教養の生物学で、このような宿泊まで伴う実習ができるとは思っていなかった。私がそもそもこの生物学Aを履修したのは、次のような理由による。私はできることならば生物学科の専門科目で、概論か各論のなかで未修の適当な科目を受けたいと思っていた。けれど、今年度は夜間授業のほぼ廃止のため、もう受けられる科目はないようだった。それならまだ受けたことのない生理学関係の先生の授業を、ということで出席してみた。すると「教室の講義は一部にして、残りを大島で実習を行ってみたい」という先生の提案には非常に驚き、また大変ありがたかった。私は大島には何度も行ったことがあるが、それはもうずいぶん昔のことだし、生物学科の人が受けるような、より専門的な実習に近いものが、さわりだけでも体験できるということで得した気分である。
実習で得られるこうした実体験は、教室で机上の講義を何時間受けるより強烈な驚きや感動、生涯残るような記憶が形成されることもあるだろう。実際、普段の生活の中では見ることができない生物たちを観察し、あるいは手で触れてみた感覚は、今回また新たな印象を私に残した。
今回いくつか特に気になった生物について記すと、まず巨大なゾウアメフラシである。今までアメフラシは知っていたし、それに触れたことも何度かあったが、あれほど巨大な、タツナミガイの何倍も大きいアメフラシがいることは知らなかった。これが外来生物だとすると、豊かな自然のようである大島の環境についても考えさせられる。
ウニの人工授精は、実験室でドライスパームを使った実習はおこなったことがあったが、このようにたった今海から引きあげたムラサキウニに、海岸で塩化カリを注射してその場で授精させるという、実にワイルドな実験は初めてである。
ムラサキウニの人工的な放精、放卵の様子。 こうして採取した卵と精子をその場で受精。 発生がスタートします(図1)。
ムラサキウニの放精、ウニは逆さまにしてあります(図2)。
その後の顕微鏡を用いた卵割の進行の観察に釘付けになった。パカッと卵割するかとその時を待ったが、気がつくとじわじわ卵割していて、ビデオなどで見る胚発生の様子と印象が違う。既に発生が進んだプルテウス幼生の観察もした他、ウミゾウメン(タツナミガイ卵)の発生も初めて観察することができた。顕微鏡観察の様子(図3)。
その他にはホヤやカメノテ、フジツボ、カニ類、海藻類、猛毒を持つガンガゼ、トコブシやイガイなどの貝類といった生物を観察することができた。早朝のプランクトン採取・観察はまた面白かった。プランクトンネットは自分で実際に引くのは初めての体験である。錘を付けたネットを引きあげるのは見た目よりずっと重く、海に引き込まれそうな感覚がした。このとき見た無数のプランクトンは実に多様で、海の中の小宇宙を感じさせるものだった。実に幾何学的で美しいケイソウ類、怪しくうごめくゴカイ類、ビヤ樽のようなウミダル、親とは似ても似つかない形をしたさまざまな幼生、親のミニチュアのようなクラゲや貝類の幼生、何の仲間か見当もつかない不可思議な形態の微小な生物など、興味は尽きなかった。
朝6時からのプランクトン採集(図4)。
動物プランクトンのひとつ「ウミタル」(図5)。
我々脊椎動物に近縁です。二日目の三原山外輪山、裏砂漠歩きでは大島の雄大な自然を感じることができた。確か私は、大噴火以降では東側の裏砂漠側に入ったのは初めてだったと思う。以前の記憶とずいぶん変化したように思った。この辺りは矮小な草木本のパッチ状コロニーがある程度なのに、異常なほど多くのセミが群舞していた。人にぶつかってきたり頭にとまったり、全く人を恐れず、東京のセミとは大きく違った。彼らは何の樹液を吸っているのだろうか。
外輪山の斜面を下る途中、スコリアばかりで何の植生も見られないような裏砂漠の中に、高さ1cmくらいの何かの実生(ハチジョウイタドリか?)が一筋に生育しているのを見つけた。そこは恐らく降水時斜面を雨が流れた跡で、吸水の激しい地質ながら地形的に雨裂状の微小な溝地形が形成されていた。このような乾燥の激しい環境でも、僅かに水分の多いところがあれば、そこに新たな植生が入ってきて、見事に一つの列をなして植物が育っているのが面白く、また生命力を感じた。
二日間、見事な晴天に恵まれ、船の旅も気持ちよかった。大島の、海底が透けて見える緑色の海から、東京湾に入って褐色に濁った海の色に変わるまでの変化も実感した。
生物学科の友人にこの大島実習のことを話したところ、「そんな実習があったの? それなら是非この授業履修したかった!」と大変うらやましがられた。大島での二日間は、実に濃密で有意義な時間であった。三原山外輪山から裏砂漠を下る(図6)。
無毛の砂漠から草原、森林へと遷移していく様子を目の当りにできます。