2007年度 地理環境科学実習I<伊豆大島野外実習>
日程:2007年11月22日
時間:
場所:伊豆大島
報告 2007年度 地理環境科学実習I<伊豆大島野外実習>
都市環境学部地理環境コースでは、2007年11月22~23日(1泊2日)、伊豆大島において野外実習を実施しました。これは地理環境科学実習Iという、野外と室内において地形学と地質学の手法を学ぶ実習の一環で、実習開講期間である2007年度後期に予定されている3回の野外実習のうちの一つです。
実習1日目
当日の集合時間である10時40分までに集合場所(この日の着岸港は伊豆大島北部の岡田港でした)に、引率教員1名(鈴木)、大学院後期博士課程の院生2名(梶、安藤)をはじめ、2・3年生の受講予定者10名が無事に各々の行程で辿り着きました(高速船、夜行船等、様々です)。
お願いしてあった宿のマイクロバスにて早速最初の目的地である、三原山カルデラ縁の御神火茶屋に向かいました。地形と地質の研究では、実際に現場で歩きながら観察することが基本です。この日の行程は、御神火茶屋から三原山を経由して大島温泉ホテルが立地しているカルデラ縁に戻ってくるまで全て徒歩です。
天気は良く、御神火茶屋からカルデラ底を進み道は良く整備されており、快適な実習の始まりです。(図1)今回のハイライトの一つは1986年の噴火により形成された溶岩流です。実習ルートでもいたるところで観察できます。数多くある三原山から流下した溶岩流でも最も新しいので、溶岩流上の植生はまばらで、1950年代の溶岩流、江戸時代の溶岩流と比較するとその新鮮さがよく分かります。1986年噴火が最新でその記憶もまだまだ鮮明であると説明しても、受講者のほとんどは噴火頃かその少し後に生まれてきた学生で、時間感覚は説明する側とはだいぶ異なるかもしれません。
黒々と見えるのは1986年噴火で三原山火口から溢れ出てカルデラ底まで流下した溶岩流、噴火前の舗装道路を覆っているのが分かります(図2)1986年噴火の溶岩流をすぐ近くで観察することができます。
伊豆大島の溶岩流は玄武岩マグマに由来するので比較的薄く、流下当時の様子を想像しながらの観察です。(図3)
火口周遊路では、溶岩ボールをはじめ、三原新山、火口、牛糞状火山弾など様々なものが観察できます。また、伊豆大島だけでなく、対岸の伊豆半島に分布する天城山、遠笠山、矢筈山、大室山などの第四紀火山も眺められ、伊豆大島の火山地形との違いも比較できます。
登り道を上がりきって到達した火口周遊路でお出迎えしてくれるのは、大きな溶岩ボールです。(図4)
火口周遊路からは火口がよく見えます。(2006年 図5)
火口周遊路からはカルデラ底を流れたB火口溶岩流もよく見えます。
溶岩流の向こう側のカルデラ縁は目的地の大島温泉ホテルです。(2006年 図6)
大島温泉ホテルでは西暦838年神津島起源の火山灰層の観察をしました。ホテルの駐車場脇の露頭では、黒色をおびた粗粒で厚いスコリア層や火山灰層からなる伊豆大島起源の噴出物が複数観察できます。その中で、薄いながらも白色で一際よく目立つのが伊豆七島の一つである神津島天上山火山から飛来したと考えられている火山灰層です。この火山灰層の存在により、伊豆大島火山の正確な噴火史を組み立てることができます。大島温泉ホテル脇の露頭で観察できる西暦838年神津島起源の白色火山灰層。(2006年 図7) 大島温泉ホテルを後にする頃は陽もやや傾きはじめ、日の短い秋を感じさせます。再び宿のマイクロバスに乗り、今晩の宿がある元町方面に向かいました。宿では地元の漁師さん差入れの伊勢エビの味噌汁や地元の食材による料理を楽しむことができました。夜は今日見たものの復習と明日のコースの予習です。
実習2日目
二日目のコースは海岸線をたどるコースです。マイクロバスで向かったのは爆裂火口後でもある波浮港を眺めることのできる見晴台で、伊豆大島南東端に位置します。波浮では、9世紀マグマ水蒸気爆発による爆裂火口跡がその後の津波により海とつながり港となりました。途中,マグマ水蒸気爆発の噴出物を観察しながら次の目的地である差木地集落付近の海岸に向かいました。海岸では海岸まで達した溶岩流や降下スコリア・火山灰層の観察ができます。
波浮港周辺で観察できるマグマ水蒸気爆発の噴出物、ひと抱えもある大きさの溶岩片は噴火の凄まじさを感じさせます。(図8)
差木地集落付近の港東方の海食崖に露出する溶岩流。(図9)
同じ地点では溶岩流の下敷きになったより古い時代の噴火堆積物や当時の土壌も観察できます。(図10)差木地集落西方のバス停で路線バスにのり、元町にある火山博物館に向かいました。残念ながら途中にある地層大切断面は時間がないのでバスの車窓からの観察にとどまりました。最後は火山博物館で,野外で観察したことの復習をかねて火山について様々なことを勉強しました。その後、再度宿の人にマイクロバスで迎えに来てもらい、解散場所である岡田港に連れて行ってもらいました。
天候にも恵まれ、1泊2日の短い野外実習でしたが生々しい噴火の痕跡を目の当りにして噴火の凄まじさを感じることができたと思います。高速船を利用することにより、以前よりも短時間で多くの地点で実習ができ、火山を対象とした野外実習の場として伊豆大島は最適なフィールドの一つであることが実感できました。
(実習担当教員:鈴木毅彦)