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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#721 小俣貴宣氏(ソニーグループ株式会社)による大学院授業(大学院英語化推進事業)

12月7日に,私が大学院で担当する講義形式の授業「認知行動学特論」の中で,小俣貴宣氏(ソニーグループ株式会社)にゲストレクチャーとして講義をいただきました。

小俣氏は認知科学がご専門であり,様々な大手企業でのキャリアを経て,現職に至ります。小俣氏と私とは現在共同研究を行っており,今年度で3年目になります。その縁もあって,今回ゲストレクチャーを担当していただきました。 ゲストレクチャーを交えた授業実施の経緯については,こちらもご参照ください。

講演タイトルは,「Practical Application of Psychology in Product Development (製品開発における心理学の実践的応用)」でした。前半のトピックは,「知覚・認知は客観世界を完全に再現したものではない」でした。主観的に感じるものは,必ずしも実環境と1対1対応していないことについて,非常に多くの心理現象をデモしてくださいました。

例えば,「3つの数字の法則を見出す」というデモを通して,人間の認知バイアスについての解説をされました。具体的には以下のバイアスです。こうしたバイアスに捉われず,法則を見出すためには,反証(当てはまらないこと)を挙げることが重要であると解説されました。

  • 仮説や信念を検証する際にそれを指示する情報ばかりを集め,反証する情報を無視または集めようとしない傾向があること」
  • 「最初に提示した情報が意思決定の基準に大きな影響を及ぼす影響(アンカリング効果)」
  • 「複雑な解決策は単純な解決策よりも良いと考えてしまう傾向(複雑性バイアス)」


最後に,ユーザーの心理や行動の特性の理解に基づきデザインを設計していくことの意味についてご説明いただきました。社会にある使いにくいデザインや,工夫に富むデザインの事例をご紹介しながら,「人の心理・行動の特性を理解し適切に応用することで,人工物との相互作用を通じた経験の質が向上する。その際,心理学・認知科学に関する専門知識が強力なツールになる」ということをお話しいただきました。

デモンストレーションが豊富なこともあり,学生さんが積極的に授業に参加するスタイルであり,良質な教育機会となりました。


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