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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#646 高齢者の運動イメージ:時間的評価その2(Personnier et al. 2010)

前回に引き続き,高齢者の運動イメージに対する時間的評価(Mental Chronometry)に関する研究紹介のです。今回は,高齢者が純粋な認知活動として運動イメージを生成できているか(運動の出力を伴っていないか)を,筋電図を用いて検証したものです。

Personnier, P.Mentally represented motor actions in normal aging: III. Electromyographic features of imagined arm movements. Behav Brain Res 206, 184-191, 2010

健常高齢者12名(平均67歳)と若齢者が参加しました。参加者の運動イメージ能力は一定レベルに高いことを,別の指標(MIQ-R)で確認済みです。イメージする動作は上肢動作であり,スタート位置と右ターゲット,左ターゲットを往復するものでした。例えば,「スタート-右-スタート-左-スタート-右-スタート-左-スタート」といった具合であり,所要時間5秒程度の運動でした。

この運動にかかわる上肢の筋活動として,三角筋前部(anterior deltoid),三角筋後部(posterior deltoid),上腕二頭筋(biceps brachii),上腕三頭筋(triceps brachii)の筋電図活動を測定しました。もし高齢者のイメージ活動が一定のクオリティを保つならば,安静時と比べて有意に高い筋電図活動が見られないはずだと,Personnier氏らは考えました。

実験の結果,筋電図活動については高齢者であっても安静時からの有意な活動は見られませんでした。この結果は,一定の運動イメージ能力を保持する健常高齢者については,純粋な認知活動として運動イメージを生成できることを示唆しています。

ただし,運動イメージの時間評価については,若齢者に比べて高齢者の方が不正確であり,実際にかかる時間を過小評価していることがわかりました。この結果からPersonnier氏らは,高齢者が抱える運動イメージ能力の問題は主として認知レベルの問題であり,内部モデルに基づいて運動のシミュレーションする能力(より具体的には,運動の結果を予期する能力)が低下していることにあるのだろうと推察しました。



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