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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#741 DCD児のボール捕球:システマティックレビュー(Derikx et al. 2020)


今回ご紹介するのは,DCD児が両手もしくは片手でボール捕球をする際の特性について,過去の関連研究に対するシステマティックレビューによって提案している論文です。既に一度このコーナーで紹介したことがある論文なのですが,少し異なる視点に着目していただくため,再度ここで紹介することとしました。

Derikx D et al. The nature of coordination and control problems in children with developmental coordination disorder during ball catching: A systematic review. Hum Mov Sci 74 Pages 102688, 2020, DOI: 10.1016/j.humov.2020.102688

日常生活動作全般に困難が起こりうる中で,なぜボール捕球なのかという指摘もあろうかと思います。しかし,この論文で著者のDerikx氏らがイントロ冒頭でしている通り,ボール捕球は学校生活におけるスポーツやレクレーション的なイベントの中で当たり前に行う動作のため,それがうまくできないことが,しばしば冷やかし(ridiculed)の対象となり,自己効力感の低下といった二次的・社会的問題に直結しえます。Derikx氏らはこうした問題意識のもと,これまで体系的なレビューがないことも踏まえて,システマティックレビューを行うことにしました。

1994年から2019年までの論文を対象とした結果,本論文の基準に合致した研究が15編ありました。これらの報告内容を分析した結果,DCD児のボール捕球としてDerikx氏らは大きく4つの特徴があると指摘しました。

第1の特徴は,捕球開始動作が遅いということです。捕球動作は,大別すると捕球位置を予測してその位置に手を移動させる局面(transport)と,手でボールをつかむ局面(catch, grasp)の2局面があります。第1の特徴は手の移動開始が遅いということです。Derikx氏らは,ボールの軌道を知覚してから捕球位置を正確に予測するために,より長い時間をかけているのではないかと考察しました。

第2の特徴はボールをつかむタイミングが早いということです。捕球動作について時間をかけることで正確さを担保しようと努力しているのではないかというのが,Derikx氏らの解釈です。

第3・第4の特徴は関節レベルの自由度に関するものであり,肩・肘・手首の主要関節について,同一の腕の中(intra-limb)もしくは腕の間(inter-limb)について同じように動かす傾向や,一部の関節を動かさない傾向です。いずれも,運動の自由度を一部拘束することで,制御を簡便にしようとする意図を感じることができます。

Derikx氏らはこれら4つの特徴について,単に問題点として考えるのではなく,DCD児なりの適応の結果と考えるべきだと主張しています。確かに,これら4つの特徴は定型発達時の捕球動作とは性質が異なります。しかしDCD児の運動困難性を考えれば,問題克服のための手段としても考え得るものです。Derikx氏らは,こうした視点の下で適切な支援を考えるべきだと主張しています。

またDerikx氏らは,支援の方向性として,単に手の動きに着もするのではなく,視線行動など,ボールの軌道の知覚の側面にも目を向けるべきだとしています。つまり捕球をスムーズにするためには,情報処理の入り口の段階であるボールの軌道の知覚が改善されることで,捕球そのものの効率性が改善することもあるだろうと説明しています。こうした発想は私たちの研究室の研究観とも合致するものであり,大変心強く思うところです。

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