研究による効果

ゲリラ豪雨に関する研究

データベースに含める有意義な対流雲は,予備的解析から数万個と見積もられ,まずは対流雲の移動の追跡を精度よく半自動で行うプログラムの作成が重要である(H28年度). 個々の対流雲の移動に沿って10分毎の三次元レーダーデータから対流雲の特性値が得られ,環境場の特徴(鉛直シアの状態等)を解析し,データベースを作成する(H29,30年度). これをもとに移動経路に沿った対流雲の発達や組織化の推移,地域による差異など対流雲のclimatologyを解析し, 東京都心と周辺域における対流雲の差異(本当に「都市型」と呼べる特徴的な豪雨があるのか?など)や対流雲の組織化・挙動と環境場との関係を明確にできる(H31,32年度). 以上で得られる知見は短時間強雨の発生発達を予測する上で従来にない情報であり,東京オリンピックにおける気象予測等に大きく貢献すると考えられる. 東南アジアにおける大都市とその周辺地域を中心に,渇水や雨季の開始・終了の長期変化,年々変動とそのメカニズムを解明し, 特に渇水や雨季開始の遅れの事前予測手法を開発(H28〜30年度)することにより,諸都市における水質汚濁の危険性と対策を事前に取るための判断材料を提供する. さらには過去の変化だけでなく,気候のモデル予測における将来の変化も解析(H31〜32年度)することにより,今後に各都市が気候変動適応策を立案する際の基礎的資料を提示する.

洪水氾濫に関する研究

アジア大都市における特に中小河川(例えば,東京の神田川,フィリピン・メトロマニラのパシグ川など)を対象に,水文データを収集解析するとともに(H28年度), 個々のビルや家屋,駐車場など正確な不浸透域を抽出可能な高度な地物データGISを作成し(H28〜29年度),これを用いて豪雨の流出経路を物理的に忠実に再現する精緻な都市型洪水氾濫予測モデルを構築する(H30年度). 本モデルに都市河川流域で導入が検討されている種々のハード・ソフト洪水減災対策シナリオを入力として適用することにより, 各ハード・ソフト洪水減災対策による洪水浸水低減効果を評価する(H31〜32年度). これにより,対象都市河川流域におけて費用対効果の高いハード・ソフト洪水減災対策を具体的に提示することが可能となる.

河川水質に関する研究

大都市の河川・内湾(例えば神田川・目黒川および東京湾など)を対象とした三次元流動・水質シミュレーションを構築する. 流動シミュレーションのベースは現有しており,本研究期間で水質モデルを組み込み,平常時の塩水遡上に伴う溶存酸素濃度の変化,洪水時の有機汚濁供給による物質輸送と堆積過程などを予測する. 成果の一つ目は(H28〜29年度),計算に使う地形,潮位,河川流量などのデータベースの構築である.アジア諸国ではデータそのものが貴重である. 二つ目は(H30〜31年度),流動・水質シミュレーションの実フィールドへの適用である.閉鎖性水域の水質は,流れをコントロールして改善するのが基本であるため,流動シミュレーションだけでもかなりのシナリオ検討が可能になる. 三つ目は(H31〜32年度),水質改善に向けたシナリオ検討と施策提案である.例えば,東京都建設局はオリンピックまでに都市河川の悪臭やスカム発生を改善したいと考えている. マニラを流れるパシグ川でも水質汚濁は深刻であり,当局は首都の水辺を復活させる取り組みを長年模索している.他の国でも状況は同様であり,本成果は都市に美しい水辺を取り戻すための強力なツールとなる