学部講義概要『マクロ経済学講義』と
『マクロ経済学のナビゲーター』補追


教科書 脇田成 『マクロ経済学のナビゲーター』 日本評論社 2000年6月30日刊

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目次

I マクロ経済学の課題
II 経済データと国民経済計算
III 新古典派のマクロ経済体系
IV IS-LM分析: ケインズ的なマクロ体系
V 家計の行動と消費関数
VI 企業と投資関数
VII 政府の役割と財政政策
VIII 中央銀行と金融政策
IX 国際マクロ経済学の基礎
X マクロ経済学の新展開
XI 日本はなぜ失敗したか
補論 エコノメトリックスの基礎


I. マクロ経済学の課題■■■

 さまざまなマクロ経済学のアプローチについて概説し、授業の手順を説明する。また教科書・副読本についても言及し、並行学習の便宜をはかる。
▼ マクロ経済学とはなにか
▼ マクロ経済学の成り立ち マクロ経済学にはどのような論争の歴史があるのか
▼ ミクロ経済学とマクロ経済学 マクロ経済学とミクロ経済学はどう違うのか ▼ マクロ経済学の対象 (1): フィリップス曲線とインフレと失業
▼ マクロ経済学の対象 (2): 成長と循環: トレンドとサイクル
▼ マクロ経済学の対象 (3): どのように『動いているのか』と『対応すべきなのか』
▼ 日本のマクロ経済50の課題と学習のポイント

II. 経済データと国民経済計算 ■■■

最小限の国民経済計算と新聞紙上で頻出する統計数字について解説する。現在の日本のマクロ経済動向や国内総生産の現状、各支出項目の推移と予測についても考える。

皮膚感覚とマクロ経済・・・・統計数字が発表されると株価はなぜ動くのか?

II-1. 国民経済計算

▼ マクロ経済活動水準の指標とは何か 会計的なアプローチ
▼ 5つの会計システム SNAの構成
▼ 国内総生産GDPとその計算 6つの注意

注意1: 付加価値と二重計算
注意2: 市場価格と帰属計算 無償労働をどう考えるか
注意3: 「名目」と「実質」
注意4: 「国民」と「国内」概念: GNPとGDP
注意5: 純と粗
注意6: 三面等価

★資料: 三面等価の図解
▼ 国民貸借対照表・国富とバブル 国富とストック経済

II-2. マクロ経済で注目される諸指標1 : インフレ

失業・インフレ・経済成長率から、新しく注目される経済指標へ なぜ純粋なインフレが問題か。

▼ 3種類の物価指数
▼ 世界と日本のインフレ率

II-3. マクロ経済で注目される諸指標2: 失業率

▼ 失業率の計測 失業者の二つのタイプと「深刻な」失業
▼ 実際の日本の失業率 [最新データは総務庁統計局
▼ 世界と日本の失業率 ★資料: OECD標準化された失業率

II-4. 現実の景気判断

▼ 景気動向指数
▼ 日銀短観

データで見る日本のマクロ経済 (umac_2gd.htm)

株価・地価為替レート経常黒字など注目すべき数字についても学習が必要です。

実際の日本の失業率 (um2uem.htm)


III. 新古典派のマクロ体系 ■■■

ミクロ経済学の復習を行いながら、新古典派経済学がどのようにマクロ経済学に応用されるかを学習しましょう。
▼ マクロ経済学の2つのとらえ方
▼ たくさんある短期と長期の区別

III-1. 新古典派のマクロ経済体系

▼ 部分均衡分析と一般的均衡分析
▼ マクロ経済学の4大市場
▼ 二分法と貨幣ヴェール観 分類の基準: [a] フローとストック、[b] 名目と実質、[c] 貨幣と実物
▼ 比較のポイント 貨幣と交換プロセスをどう考えるか?・・・・新古典派経済学の基本的想定の問題点と市場の失敗
▼ 非対称情報と価格メカニズムの限界
◆ ミクロ経済学復習1: 需要と供給の部分均衡図解
◆ ミクロ経済学復習2: 2財モデルにおける消費者の最適計画の図解

III-2. 新古典派の労働市場観

完全雇用
▼ 最適労働供給: 古典派の第二公準 賃金が上昇すると、いつでも労働供給は増加するのか バックワード・ベンディングの労働供給曲線
コラム 「古典派」と「新古典派」
▼ 最適労働需要: 古典派の第一公準
▼ 新古典派における失業とは? 自発的失業と非自発的失業

III-3. 新古典派の生産物市場観

▼ クルーソーの選択: 貯蓄と投資の決定 ▼ 自然利子率実物利子理論: 1セクター経済の意味
▼ クルーソーの寓話とケインズ経済学
▼ 消費-投資ギャップと現在の日本 (貸し渋りアジア通貨危機アメリカの株価バブル?)

◆ 消費財と資本財

III-4. 貨幣とは何か

素朴な疑問: 貨幣とは何だろうか? なぜ紙切れに価値があるのか?
貨幣の社会的機能と個人的需要動機の区別

▼ 貨幣の社会的機能(1): 価値尺度
▼ 貨幣の社会的機能(2-1): 交換手段 物々交換経済との対比
▼ 貨幣の社会的機能(2-2): 交換手段 信用との対比
▼ 貨幣の社会的機能(3): 価値の保蔵手段
▼ 貨幣の需要動機: 取引動機と投機的動機

III-5. 貨幣数量説と新古典派の貨幣市場観

貨幣数量説とその3つのバリエーション
▼ インフレーションと利子率: フィッシャー方程式
▼ ハイパーインフレーションと政府のインフレ税
▼ インフレーションのコスト
▼ 新古典派経済学の体系再考

コラム ■ : 市場の失敗と新ケインジアン経済学
▼ 貨幣に対する新古典派の基本的な考え方

III-6. インフレーションと利子率

▼ 名目利子率と実質利子率
▼ インフレーションのコスト
▼ ハイパーインフレーションと政府のインフレ税
数学コラム ■ : なぜ微分は重要か?
現在価値・等比数列と資産価格
新古典派のマクロ体系はミクロ経済学+貨幣数量説です。

IV. ケインズ経済学的なマクロ体系 ■■■

標準的なIS-LM分析について説明する。

▼ ケインズ経済学と新古典派経済学: 基本的な前提と目標は何が異なるのか
三つの教科書的ケインズ型分析の鳥瞰: (a) 45°線分析 (b) IS-LM分析 (c)AD-AS分析とその関係
▼ ケインジアン分析と市場のイメージ

IV-1. ケインズ的な労働市場観: 非自発的失業と名目賃金硬直性

▼ 労働供給: 古典派の第二公準の否定
▼ 労働需要: 名目賃金下方硬直性と相対賃金仮説
▼ 企業内失業と労働保蔵行動
コラム 変動する企業利潤と安定的な賃金:暗黙契約理論
ケインズ的な労働市場: 協調の失敗と新ケインジアン経済学

IV-2. 有効需要原理と45°線分析: ケインズ的な生産物市場観

▼ ケインズ型消費関数
45゜線分析と有効需要の原理
▼ 乗数と乗数過程の意味 風が吹けば桶屋が儲かる
▼ 減税と均衡予算乗数の定理
▼ インフレ・ギャップとデフレ・ギャップ

IV-3. 投資関数とIS曲線の導出

IS-LM分析とは何だろうか
▼ IS-LM分析はなぜ直観的に分かりにくいのか
投資関数の内生化: 資本の限界効率と投資の限界効率
▼ IS曲線の導出

IV-4. LM曲線とケインズ的な貨幣市場観

LM曲線: 貨幣市場の均衡

▼ LM曲線はなぜ右上りか

IV-5. IS-LM分析による政策分析

金融政策の図解: 貨幣供給量の増大
▼ 金融政策の問題点: インフレ・バブル・超低金利 公定歩合0.5%という超低金利の功罪
財政政策の図解: 政府支出増大と減税 これまで取られた財政政策
▼ 財政政策の問題点: 財政赤字と土木国家 乗数の現状

IV-6. IS-LM分析の特殊ケース

▼ IS-LM分析の: [a] 水平なLM曲線: 流動性のわな
▼ IS-LM分析上での垂直なLM曲線: 100%クラウディング・アウト
▼ IS-LM分析上での名目、実質利子率の区別とインフレ期待の効果: マンデル=トービン効果

IV-7. 総需要・総供給分析

▼ なぜ総需要曲線は右下がりか: IS-LM分析からの導出
▼ 右上がりの総供給曲線に対するさまざまな説明
名目賃金・価格水準の固定性のさまざまな説明

IV-8. ケインズ分析のまとめ

コラム IS-LM分析における新古典派とケインズ体系の違い
セイの法則
基本的な前提についてしっかりと理解することが必要です。またIS-LM分析の図解もしっかり出来るようにしておきましょう。


V. 家計の消費・貯蓄行動 ■■■

家計と消費関数ばかりでなく、より上級のマクロ経済学のイントロダクションにもなっています。
▼ 家計の4つの行動
▼ 消費行動の現状

◆ なぜ動学的な分析が必要なのか 素朴な疑問: 消費不況とはもう欲しいものは無くなったことを意味するのか? ★資料: 平均消費性向の推移
過去[資産価格 32兆8000億円の個人住宅含み損]・現在[所得]・未来[失業の恐怖(山一・拓銀ショック )・高齢化]と消費行動

V-1. 家計消費の「現在・過去・未来」

▼ ケインズ型消費関数の問題点
▼ 計量マクロモデルとルーカス批判
▼ 説明すべき統計的事実
▼ 相対所得仮説と習慣形成

V-2. フリードマンの恒常所得仮説

V-3. モディリアーニのライフ・サイクル仮説

ランダム・ウォーク仮説流動性制約: 二つの両極端な議論

▼ ホールのランダム・ウォーク仮説
▼ 恒常所得仮説の限界: 流動性制約

V-4. 日本人の貯蓄と世代間移転

▼ 日本の貯蓄率はなぜ高いのか?そしてこの高貯蓄率は維持されるのか
▼ きんさん、ぎんさんと日本の高貯蓄は維持されるのか
▼ 世代間移転の手段と動機
▼ 世代間移転とマクロ動学モデル : 王朝モデルと世代重複モデル

V-5. 日本人の資産選択

▼ 資産選択の基準 お金をどうやって貯めていくのか 資産選択と郵便貯金・財政投融資

V-6. 住宅投資と土地問題

▼ 住宅問題の現況
▼ 消える土地神話

V-7. 少子高齢化と公的年金問題

▼ 少子高齢化の実態 素朴な疑問: 公的年金は破綻するのか 少子高齢化と財政政策
▼ 賦課方式と積立方式
▼ 二重負担
▼ 日本の公的年金のあらまし: 三階建ての構造
▼ 所得再分配を年金で行うべきか 日本の公的年金改革
少子高齢化問題と年金改革はあらゆるマクロ経済問題にからんできます。

VI. 企業の投資行動 ■■■

▼ 投資とは基本的にどのように考えれば良いのか 企業の通時的最適化
▼ 投資の実態: 近年の動向
▼ 新古典派経済学における企業とガバナンス問題

VI-1. 加速度原理と乗数・加速度モデル

▼ さまざまな投資理論
▼ 加速度原理と乗数・加速度モデル: マクロ・ダイナミックス

VI-2. トービンの Qと調整費用: 新古典派アプローチ

▼ トービンの q
▼ 新古典派投資理論と企業規模の制約
▼ 調整費用関数の導入
▼ 調整費用投資理論とトービンのq理論との接合

■ デリバティブとはどんなもの: 直観的説明 ■

▼ 新しい投資のモデル: 集計・タイミング・流動性制約

VI-3. 在庫投資

投資は設備投資・在庫投資・住宅投資に三分されますが、住宅投資は家計のところで扱っています。

VII. 政府の役割と財政政策 ■■■

政府や国家の役割を考え直しましょう。
▼ 政府の役割 政府の経済活動: マクロ安定化政策・所得再分配政策・市場の失敗
▼ 財政政策をめぐる極端な3つの考え方: 有益・有害・無効
▼ 政府の行動: 収入・支出・再分配 収入[税体系]・支出[公共投資]・再分配[年金や生活保護などの社会保障]と三分して考える

VII-1. 日本の財政

▼ 日本の財政赤字の現状 ★資料 政府予算に占める国債費の割合 GDPと国債残高 大蔵省発表による広義の政府赤字
▼ 財政赤字の将来

VII-2. 財政赤字は誰が負担するのか

▼ リカード・バローの等価定理 素朴な疑問: 国債は負担なのだろうか?
▼ 日本人から日本人が借金?
▼ 一時的な政策と恒久的な政策
コラム ■ クルーソーの選択と最適課税理論 資源配分の歪み a, 余暇と消費 b, 貯蓄決定 課税標準化のモデル

VII-3. 公共投資と「土木国家」日本

▼ なぜ無駄な投資が行われるのか: IS-LM分析の前提
▼ 土木国家日本と産業構造の歪み
▼ 公共投資の効果 ネット上の新聞特集
▼ 財政投融資と郵便貯金
▼ 日本のバランスシート
公共投資の効率性については、判断のための枠組みから考え直す必要があるでしょう。公共事業に依存する地域経済についてはばらまき財政政策のほうがはるかにましと言えるかもしれません。

VIII. 中央銀行と金融政策 ■■■

貨幣をめぐる考え方はMV=PYに集約されます。Mが上昇して、Pがあがるか、Yが上がるか、あるいはVが下がるかのいずれかです。

▼ 貨幣をめぐる2つの代表的な考え方 有益・有害

VIII-1. 貨幣供給: 銀行行動と信用創造

▼ なぜマネーサプライにさまざまな種類があるのか。金融技術革新とマネーの定義
▼ 貨幣供給量と信用乗数
▼ 「通貨主義」対「銀行主義」 銀行主義と通貨主義: 日本銀行の金融政策がバブルの原因か
▼ マネー・サプライ論争

VIII-2. 金融政策の手段

▼ 3つの主要な金融政策の手段 近年の公定歩合の推移
▼ 量的緩和
▼ 実際の金融引き締めのタイミング

VIII-3. 新しい金融政策

▼ BIS規制とプルーデンシャル規制
クルーグマンの調整インフレ論の論点とその批判
ゼロ金利政策など現実のトピックスにも注意しましょう。

IX. 国際マクロ経済学の基礎 ■■■

素朴な疑問: アメリカはなぜ日本に財政出動を迫っていたのでしょうか

▼ 開放度と資本移動
▼ 円高(輸出財が高く、輸入財が安い)は得か損か

IX-1. 国際収支の基礎

▼ 国際収支表の4項目 大蔵省による資料 外貨準備高
▼ 表裏一体の経常収支と資本収支
▼ 日本の経常収支の推移

IX-2. 経常収支をどう考えるか

▼ 取引からの利益と経常黒字

IX-3. 為替レートはどう決まるのか

▼ 為替の需要動機と為替レート決定理論の変遷
▼ 為替レート決定理論(1) : フロー・アプローチ
▼ 為替レート決定理論(2) : アセット・アプローチ 外貨預金は損か得か
▼ 為替レート決定理論(3) : 購買力平価説(PPP) 素朴な疑問: 日本の散髪代はなぜ高い: ビッグ・マック平価の理論

IX-4. 開放体系の政策分析

▼ マンデル=フレミング・モデル
▼ なぜ財政政策が無効になるのか
▼ なぜ金融政策が有効になるのか
▼ 新しい政策分析

IX-5. アジア通貨危機と短期資本移動

97年通貨危機の経緯
▼ IMFの対応とそれへの批判
▼ ヘッジ・ファンドと急激な円高

参考リンク: 外務省による日米経済Q&A アジア経済危機の原因

国際通貨制度の変遷など重要なトピックスも多いのですが割愛しています。

X. マクロ経済学の新展開 ■■■

▼ 動学的マクロ経済学学習の難しさ
▼ 実務家のマクロ経済学とギリシャ文字の経済学
▼ 政策の副作用

X-1. 動学的モデル: 時間を通じた最適化

▼ 新古典派的マクロ経済学と最適成長モデルとその拡張

X-2. 新しい景気循環理論: 新古典派とケインジアン論争の現状

▼ リアル・ビジネス・サイクル・モデル
▼ 景気変動を生み出す外生的なショック
▼ RBCモデルの意義

X-3. 新ケインジアン経済学: 名目価格硬直性と協調の失敗

▼ 新ケインジアン経済学の限界

▼ 遊休設備があればケインズ政策は必要か: 財政政策
▼ 価格変更費用があれば金融政策は有効か
コラム ■ 名目価格硬直性の理由: ブラインダーのアンケート調査

X-4. 内生的成長理論

▼ 成長モデルの限界
▼ ソローの非最適化成長理論と定常均衡の安定性
▼ 内生的成長理論の出現
より詳しい内容については、上級の教科書を参照してください。

XI. 日本はなぜ失敗したか ■■■

▼ 政策手詰まりの現状
▼ あぶはちとらずのマクロ政策

XI-1. 日本のバブルの物語

▼ 日本のバブルのプロセス
▼ バブルの定義
▼ 美人投票とバブルの既存の理論
▼ バブルの発生と崩壊
▼ 日本のバブル前史: 壊れた体温計
▼ 金融政策の失敗 (1) マネー・サプライと資産価格
▼ 金融政策の失敗 (2) 金融自由化と椅子取りゲーム

XI-2. 連鎖的金融破綻: バブルは二度死ぬ

▼ 平成大不況と超低金利政策の副作用
▼ 1997年金融破綻と日本のマクロ経済の動き
コラム ■ 非対称情報のゲーム 「学歴社会」と「土地本位制」

▼ なぜ銀行の不良債権処理は進まなかったか: 個別銀行の観点

▼ エージェントの暴走
▼ 疑心暗鬼とジャパン・プレミアム: システム不安と逆選択
▼ 複雑になりすぎ裏目に出た日本的慣行: シグナリング
▼ おまかせ主義: ギャング映画と日本経済
▼ 日本の将来
バブルの2つの失敗とはなんでしょうか。

補論 エコノメトリックスの基礎 ■■■

▼ 回帰分析の例
▼ 仮説検定
▼ 最小二乗法
▼ 標準的な回帰分析
▼ 日本経済の実証分析における問題点
▼ エクセルで回帰分析をやってみよう
▼ インターネット・アドレスとCDROM一覧
簡単なエコノメトリックスの知識を解説しています。