定住外国人の子どもを対象とした就学支援に関する調査研究

(鈴間公子:研究班B「移動と適応」)

1990年代以降、経済・社会的状況や出入国管理政策の変化にともない、日本社会のニューカマー外国人住民は急増した。外国人の困窮問題が社会問題として浮き彫りになり、政府は20091月、内閣府に定住外国人施策推進室を設置し、様々な施策をまとめた。そのうちの一つが「教育対策」であり、「定住外国人の子どもの就学支援事業」が開始された。現在、日本国内では定住外国人の集住する都市を中心に、定住外国人の子どもを対象とした就学支援が盛んに行われている。
 本調査は、在日ペルー人の生活を支援しているNPO団体主催の学習支援教室に関わる先生や子供たちを対象に行った。外国人の居住者が集中している神奈川県町田市では、町田市国際交流センターを中核に、外国人のためのフリーペーパ―の発行や、生活相談、学習支援などが行われている。このNPO団体は、町田市において、独自に学習教室を開き、また、文科省の委託事業として、大和市で学習教室を開いている。

 

町田の学習教室 ―「日本人と同じに見える子どもへの支援」―
 町田市の学習教室は、町田市民フォーラムにおいて、毎週土曜日の午後15時~18時まで教室を開いている。現在、生徒は小・中学生合わせて10名ほどで、小学生と中学生の2クラスで、英語と数学を学んでいる。生徒の大部分が日本生まれで、公立の小・中学校の学習において、言語が障害となることは、ほぼないとされる子どもたちである。先生は高校生・大学生のボランティアであり、現在は高校生1名、大学生が8名登録されている。先生1人が13人の生徒を担当する。指導内容は学校の授業に沿ったもので、教科書を参照しながら進めていく。

良きロールモデルとしての身近な先輩
 生徒たちはみな別々の小・中学校に通っており、学習教室の友達は学習教室で初めて出会ったという。従兄妹や兄弟で参加している子どもたちも多く、よく気の知れた仲間という様子であった。また、その関係は生徒たちだけではなく、ボランティアの先生とも同様であった。ボランティアの一人である女子大学生は、今年でボランティア2年目であり、幾人もの生徒が彼女に駆け寄っていた。ペルー人の大学生は、以前はこの学習教室の生徒であったが、自分と同じ境遇にある後輩たちに勉強を教えたいと、高校2年生のときからボランティアとして指導しているという。学習教室の生徒たちは、「音楽の先生になりたい。」「アナウンサーになりたい。」というような具体的な夢を語る子どもたちも多く、日本人の大学生や、大学に進学しているペルー人の先輩の姿が、彼らの将来を思い描く際の良きロールモデルとなっていた。 

大和の学習教室 ―日本語が困難な子どもへの支援―
 大和の教室は、文科省が掲げる「定住外国人の子どもの就学支援事業」の一つとして委託されているものである。不就学・不登校、来日直後で日本語が十分にできない子どもたちや学校に適応できない、また言語に困難を抱えている子供たちを対象に支援を行っている。授業時間は、月曜~金曜日の9時~16時の間、1コマ1時間で行われている。この教室の生徒数は、小・中学生合わせて16名ほどであり、彼らの両親は、日本語が話せないことが多く、家では母語を話して生活するため、なかなか日本語の習得が難しいとされている。現在、7人の教師によって、日本語、母国語、英語、数学・算数の授業が開かれている。

大和の学習教室では、就学前の子どもたちだけではなく、学習教室での授業を受けながら、学校に通う生徒も多い。彼らは、午前中は学習教室、午後は学校、などというようにスクールバスで間を行き来している。生徒の個人ノートを作り、学校の先生と学習教室の教師との間で情報の交換も行われることもあるようであるが、全ての生徒を細かく管理することは難しいようである。各々の日本語のレベルも異なるため、教師と生徒の振り分けや、授業の組み方にも工夫が必要であると、指導面での難しさを語る声が聞かれた。実際の授業では、自分で考えるようにと質問を投げかけ、授業を進める教師の姿が印象的であった。ある教師は、「先生たちはサポーターです。自分のために学び、力をつけていってほしい。」と話した。子どもたちのなかには、日本語がわからず、イライラし、「わからない。」と繰り返す姿も見られた。両親とは母語で話す幼い彼らの中には、日本語を学ぶことにさほど興味がない、という様子も伺えた。
 

今後の調査に向けて
 今回調査を行った2つの教室を比較しても分かるように、「外国人につながる子どもたち」の内実は多層化している。今後は、子どもたちの多層性を把握した上で調査を進めていきたい。
 移民として訪れた外国人が、世代を超えて継続的に日本で生活していくためには、進学、そして特定の職業を持つ具体的な将来像を描くことが必要となる。町田の学習教室では、進学のための勉強だけではなく、ボランティア大学生が、子どもたちの良きロールモデルとしての役割を果たしていることが観察された。今後は、「日本人と同じに見える子ども」に重点をおき、ペルー人対象の学習教室において、友人や先生との交流が、どのように個々人のアイデンティティや将来像に影響を与えているのか、調査を進める。