児玉謙太郎氏(東京都立大学)と私たちの研究室では,現在複数の共同研究を行っています。今回ご紹介するのは,児玉氏が,研究室の最初の博士取得者である安田和弘氏らと行った研究の成果です。
Kodama K et al. The influence of a vibrotactile biofeedback system on postural
dynamics during single-leg standing in healthy older adults. Neurosci Lett,
DOI: https://doi.org/10.1016/j.neulet.2022.136807
健常高齢者20名を対象に,早稲田大学の岩田浩康研究室で安田氏らが開発された,骨盤への振動刺激を利用したバイオフィードバックの効果を検討しました。非利き足での片脚立位トレーニングにおいて,ある方向に動揺量が大きくなった際,振動刺激がフィードバックされる仕組みになっています。
このトレーニングの前後で片脚立位の時系列的特性がどのように変化するかを検討するため,児玉氏らは,フラクタル解析の一つである,マルチスケールDFA(multiscale detrended fluctuation analysis)という手法を用いて,足圧中心動揺量のデータを解析しました。DFAは,重心動揺量がもつゆらぎの特性を集約統合し,定量化する方法としてしばしば利用されます。DFAの計算の考え方については,児玉氏の別の論文をご参照ください。
DFAでは,時系列データの持つ非定常性を除去したうえで,様々な時間スケールに基づいて時系列のトレンドを計算し除去した後に動揺量(RMS)を計算し,最終的にはその動揺量(RMS)と時間スケールの関係性を示す傾き(スケーリング指数,α)を出します。このαの値が1.0に近いほど,複雑性が高い状態と解釈します。また,それ以外のαの数値に対してもどのような状態を反映するかについて,研究領域で一定の理解があります。
実験の結果,バイオフィードバックを受けた高齢者の前後方向のCoP動揺量は,長時間スケール(Slow Scale)において,トレーニング後に反持続性の相関傾向をもつことがわかりました(anti-persistent)。この結果は,もともと反持続性相関のあった時系列が、(BF群では)トレーニング後に強化されることを示唆しています。この結果に基づき児玉氏らは,前後方向におけるエラー減少のための戦略がトレーニングによって変化したことを示しているのではないかと解釈しました。
一方バイオフィードバックを受けなかった高齢者のCoP動揺量は,長時間スケール(Slow Scale)において時系列のランダム性が高まっている可能性が示唆されました。児玉氏らは,適切なバイオフィードバックがないと,トレーニングによる疲労の影響などが動揺のパターンに反映されえるのかもしれないと解釈しています。
児玉氏らは,振動刺激を用いたバイオフィードバックトレーニングは,視覚依存になりがちな高齢者の姿勢制御の改善に有用であると期待しています。