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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#696 書籍紹介:「価値を生む心理学」

私たちの研究室では,3年間にわたり,ソニーグループ株式会社R&Dセンター先端研究部(以下,SONY)と共同研究を行っています。SONY側のリーダーは,認知科学を専門とする小俣貴宣氏です。この度,小俣氏が2022年6月に編著本を出版されましたので,その概要を紹介します。

小俣貴宣(編著),原田悦子(編集協力)「価値を生む心理学:人と製品・サービスを結ぶ科学」 新曜社,2022

この本の問い,モノづくりの分野に“科学としての”心理学の知識が有用であるために何をすべきか,ということです。ここで“科学としての”としているのは,実験に基づく認知科学的知見を想定しているためです。心理学にはモノづくりの分野に役立つポテンシャルがあるが,それを真に有用なものにするためには,心理学分野の人材を受け入れる仕組みや人事評価,それを育てる大学教育の在り方など,多角的に考えるべきだということが主張されています。。

一般にモノつくりと心理学に関する書籍では,モノの使いやすさ(ユーザビリティ)に関する心理学の貢献について,具体例に関する写真等をたくさんちりばめで校正生する場合が多くあります。しかしこの本は,主として文字ベースで構成されており,視覚的な素材に頼らずに著者の想いを伝えようとする意図が伝わります。

この本で想定しているのはモノづくりの企業です。しかしこの本で書かれている内容は,他の分野にも応用可能なものが多く,「基礎科学としての心理学が実践分野に役立ちうるために何をすべきか」ということについて,様々な情報を提示しています。私たちの研究室では,リハビリテーションやスポーツの分野に“科学としての”心理学の知識を生かすことを目指していますので,大いに参考になりました。

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