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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#689 下肢に対するCI療法(dos Anjos et al. 2020) 

CI療法(constrained-induced movement therapy)は,脳卒中者に対する上肢のリハビリテーションの手法として発展してきました。今回ご紹介するのは,そのプログラムを下肢のリハビリテーションへと応用する際の考え方を取り上げた論文です。Taub氏の研究室で執筆された総説的論文です。

dos Anjos S. et al. Constraint-induced movement therapy for lower extremity function: describing the LE-CIMT. Phys Ther 100, 698-707, 2020

ここでいう下肢のリハビリテーションとは,歩行や立位など,両下肢を同時にかつ協調的に使う行為を想定しています。このことは,主として麻痺側の動きを主とする上肢のリハビリテーションと異なります。この違いを主たる理由として,下肢に対するCI療法は,上肢に対するリハビリテーションとは若干異なる点があります。

上肢に対するCI療法の場合,問題の所在として想定するのが,学習性不使用(Learned Non-use)です。麻痺側がうまく動かせないことで,麻痺側を使わない形で代償的に行為する結果,麻痺側を動かす脳機能が可塑的に変化してしまい,麻痺側を使えない状態になる状態を,学習性不使用といいます。これに対して歩行や立位の場合,麻痺側と非麻痺側を同時に使っているため,純粋な意味での学習性不使用十は異なります。jos Anjos氏らは,下肢の場合,”学習性誤使用(Learned misuse)”が問題であると指摘します。つまり,使わないことの問題ではなく,誤った,不適応的な動きに収束していることが問題と捉えています。

また,上肢に対するCI療法では,非麻痺側を拘束する道具が使われることがあります。これに対してjos Anjos氏らは,下肢の場合,非麻痺側を拘束すると転倒の危険性を高めるため,拘束しない方法を推奨しています。

論文では,下肢の学習性誤使用の状況を打破するための具体的なCI療法の考え方が提案されています。大きく4つのステップがあります。(1)一定時間以上の練習(high intensity; 1日3時間×10日の練習),(2)シェーピング(スモールステップで課題難易度を上げる,簡単に実践できる条件よりも少しだけ難易度を高くする),(3)Transfer packageの使用(リハ環境で学習した内容を実環境で,セラピストのスーパーバイズがない状況でも実践できるように転移させる),(4)麻痺側を使うことを強く推奨する,という4ステップです。関心のある方は,ぜひ原典をご参照ください


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