セラピストにむけた情報発信



脳性まひ児の行為プランニング能力はリハビリテーションにより向上するか?
(Craje et al. 2010)




2015年9月7日
脳性まひ児に見られる上肢動作障害については,このコーナーでも何度か紹介してきました(例えばこちら)。

今回ご紹介する論文では,この上肢動作障害について,動作を実行する前の,プランニングのレベル(action planning)の問題に着目しています。論文では,脳性まひ児が行為のプランニングレベルでも障害が見られること,そして,そうした障害はリハビリにより一定の改善があることが示されています。

Craje C et al. Action planning in typically and atypically developing children (unilateral cerebral palsy). Res Dev Disabil 31, 1039-1046, 2010

対象は3-6歳の片麻痺型脳性まひ児(unilateral cerebral palsy;左右の上肢の一方の麻痺が顕著),24名でした。

プランニングの能力を測定するために用いた実験課題は,木製のナイフを穴に刺すという課題でした。黒ひげ危機一髪のような形でナイフを刺す課題です。障害が少ない側の手(less affected hand)でナイフを操作します。

事前にナイフの柄の部分をどのように置くかによって,ナイフのつかみやすさと,穴への刺しやすさとが一致しない状況を作り出すことができます。実験では,両者が一致しない時に,穴への刺しやすさを計算して(つまり先を見越して),ナイフのつかみ方を調整できるかが測定されました。課題の詳細については,こちらをご覧ください。

リハビリテーションとして, CI療法(Constrained Induced Movement Therapy)が用いられました。

「片腕を怪我した海賊役」という設定で,障害が少ない側の腕を拘束した状態で,ナイフを使って海賊ごっこをし,いろいろな動作を経験させていきました。6週間におよぶCI療法の後,両腕の協調性を養うリハビリを2週間行いました。

実験の結果,脳性まひ児は,ナイフのつかみやすさと,穴への刺しやすさとが一致しない状況において,先を見越した動作の遂行ができないことを確認しました。この結果は,障害が動作のプランニングのレベルにも存在することを示しています。
リハビリテーション後は,先を見越す必要がある条件において,一定の成績改善が認められました。この研究では,CI療法によって障害側の上肢の動作訓練をおこない,障害の少ない側の上肢でナイフ実験を行いました(つまり,リハビリをした上肢と測定する上肢が異なる)。にもかかわらず,リハビリの効果がナイフ実験に見られたことになります。この結果は,行為のプランニングに関する障害は,障害のある上肢固有の問題ではなく,より上位レベルの問題であることを示しています。

この研究は,脳性まひ児に見られる行為のプランニングレベルの問題が,リハビリテーションにより改善可能であることを示したという意味で,意義深い研究と言えるでしょう。

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