セラピストにむけた情報発信



先を見越した上肢動作の運動計画:発達的変化
(Jongbloed-Pereboom et al. 2013)

 


2014年1月20日

今回ご紹介するのは,子供の上肢動作の運動計画力に関する研究です.先を見越した運動計画ができるかどうかが,ここでのポイントです.

Jongbloed-Pereboom et al. 2013 Anticipatory action planning increases from 3 to 10 years of age in typically developing children. J Exp Child Psychol 114, 295-305, 2013

コップにジュースを注ぐシーンを思い浮かべてみます.もしテーブルにおいてあるコップが逆さになっていたら,そのコップをどのように持つでしょうか.大人の方であれば,たいてい手を逆さにして(回内させて)持つはずです.こうすることで,コップを正立させてジュースを注ぐときに,最も自然な持ち方になっているからです.

このように,動作の最終段階が快適な姿勢となっているように運動を計画するという力が,私たちにはあります.こうした力を,英語では「end-state comfort effect」といいます.たとえ最初の動作が多少窮屈でも,動作の最終段階を見越して運動を計画できる能力ともいえます.



今回ご紹介する研究では,こうした計画力を3歳から10歳までの子供351名がどの程度有しているかを実験的に調査しました.

実験課題は子供がゲーム性を持って楽しめるよう,木製の刀を穴に指すという課題を用いました.柄の部分を手から遠い位置に向けることで,コップを逆さにした状態と同じ状況を作ることができます.この状況でどのように柄を持つのか,言い換えれば,穴に指す際に快適な姿勢となる持ち方をしているかを測定しました.

実験の結果,年齢に伴って比較的線形に運動計画力が上昇していることが確認できました.先を見越した柄の持ち方の発生頻度は,3歳ではたった20%であり, 10歳では60%程度でした.

おそらくコップを逆さにした状況では,先を見越した動作(つまり手を回内させて持つ動作)の発生頻度はもっと高いだろうと思います.この課題は,多少難易度が高い(大人でも先を見越した動作の発生頻度が100%ではない)のかもしれません.

細かく見てみると,年齢に伴って上昇していた運動計画力が9歳の時点で一時的に低下していました.個人的にはそこまで大きな意味を感じませんでしたが,類似した先行知見があるようです.著者によれば,発達に伴ってこの時期に神経活動の機能的な再構成(motor reorganization)がおこることが反映しているのではないか,という事です.

また女児のほうが男児よりも先を見越した動作の発生頻度が高いという事もわかりました.必ずしも理論的な意味づけはできませんが,子育ての経験などを通して考えると,納得できるような気もします.

またこの課題の成績は,運動の器用さを評価するための様々な検査(小さなブロックを箱から箱へ移す検査,コインを穴に入れる検査)の成績とは,強固には関連していませんでした.つまり,ここでの運動計画の発達の問題は,運動能力自体の発達とは独立し多評価であると考えられます.より認知的なレベルの運動計画力を評価できるという期待があります.

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