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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#781 【研究成果報告】高齢者が障害物を回避する際のオーバーリアクションの弊害:UCM解析を用いた検討(Suda et al. 2024)

博士後期3年生であり,日本学術振興会特別研究員(DC2)の須田祐貴君の研究成果が国際誌に発表されました。いかにその概要をご報告します。オープンアクセスですので,どなたでもフリーで論文を閲覧できます。

Suda Y, Kodama K, Nakamura T, Sakazaki J and Higuchi T (2024) Motor flexibility to stabilize the toe position during obstacle crossing in older adults: an investigation using an uncontrolled manifold analysis. Front. Sports Act. Living 6:1382194. doi: 10.3389/fspor.2024.1382194


高齢者が障害物を回避するときにしばしば確認されるのが,過度な回避動作を取ること,いわゆるオーバーリアクションです。例えば段差をまたぐ場合,段差自体が低くても,高い段差をまたぐような行動を指し,保守的な回避方略(conservative strategy)よも呼ばれています。確実に衝突を避けるという点では意味のある行動ではあるものの,段差またぎの場合にはバランス管理が難しくなるといった弊害が指摘されています。また私たちは,段差の高さに応じた動きの調整機会を奪うこととなり,長期的に見てマイナスだと考えています。須田君はUCM解析(Uncontrolled manifold解析)という手法を用いて,関節間の協調性という観点からこの考え方の妥当性を検証してくれました。

高齢者26名と若齢者21名を対象に,同じ高さの段差を連続して20回跨いでもらいました。またぐ際のつま先を安定させるために,関節間の協調性がどの程度高いか(同一の足尖位置を,多様な関節協調で実現できるか)について分析しました。その結果,高齢者は若齢者に比べて,関節間の協調性が低いことが確認されました。さらに相関分析の結果,では年齢にかかわらず,クリアランスを大きくとる人すなわち保守的な回避をとる人ほど協調性が低下していることが確認できました。この結果から須田君は,日常的に動作の調整機会が少ない人は協調性が低下している可能性があると主張しました。

この研究は,科学研究費補助金基盤研究(B) 「高齢者における歩行の複雑性の再獲得:過剰な衝突回避方略への介入」(2022-2024, 代表者:ヒグチタカヒロ)のメインテーマとして行っている研究です。須田君が独自の勉強でUCM解析の手法を導入してくれたことで実現できました。


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