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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#776 総説論文「言葉を用いた運動支援」(樋口・中本)

2年間にわたり,雑誌「理学療法」(メディカルプレス社)にて,連載「知覚・認知と運動制御」を担当しています。今回は,私自身が執筆した論文をご紹介します。鹿屋体育大学の中本浩揮氏との共著論文です。

樋口貴広・中本浩揮「言葉を用いた運動支援」理学療法40 (10), 923-931, 2023

この論文は,これまで講演で何度か話題提供をしてきた内容を文書化したものです

他者の動作習得を支援する際には,様々な形で言葉をかけます。動作に習熟した人であれば,動作が未熟な人の動きを見て,どこが悪いのかを容易に指摘することができるでしょう。学習者の動きの問題を分析し,言語化できること自体は素晴らしい能力です。ただ,それを言葉にして指摘したからといって,必ずしも動作が良くなるわけではないことを,私たちはしばしば経験します。運動学習研究の中には,1つ1つを丁寧に言葉で動きの指導をすることが,かえって学習の妨げになると考える研究もあります。

この論文では,そうした知見をまとめて,学習者の動きに対して細かく言語指示しすぎる事の弊害をまとめています。関連する知識として,フィードバックのガイダンス仮説や,身体内部への注意の焦点化などを紹介しています。

最近の運動学習では,万人に共通の理想的な動きの型のようなものを追い求めるというよりは,各個人や個々の状況に対して最適な動きを常に探索するという視点が重視されています。論文ではそうした視点に基づき,環境設定を工夫したうえでの限定された言葉がけや,理想的な動作遂行時に得られる運動感覚を言葉にするという発想について紹介しています。

「理想的な動作遂行時に得られる運動感覚を言葉にする」という発想は,中本氏の発想です。かつて大学院で講義をしていただいた際にお話をしてください,大変感銘を受けました。今回共著という形でその考えを論文に含められたことが,私にとっては最大の成果です。



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