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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#761 [研究会運営]第14回日本スポーツ視覚研究会(ポスドク・渡邉諒君による傍聴記)

10月14日に開催した第14回日本スポーツ視覚研究会を,世話人として運営しました。おかげさまで100名を超える申し込みをいただき,最大で90名近い参加がありました。これまで研究会に関わってくださった先生方に加え,今回初めて参加してくださった方も多くいらっしゃいます。参加してくださった皆様に心よりお礼申し上げます。

研究会の傍聴記を,博士研究員の渡邉諒君に依頼しました。以下,お楽しみください。また,研究会の概要,ならびに過去の研究会に関する情報はこちらをご覧ください

  • 傍聴記:渡邉諒(本研究室,特任研究員)
今回は,2名の研究者から話題提供を頂きました。1人目は,東京都立大学人間健康科学研究科の福原和伸先生から,スポーツ熟練者のもつ予測能力に関して,ご自身の研究事例や関連研究をご紹介いただきました。特に,バーチャルリアリティ技術を駆使した方法により、スポーツ熟練者の動作情報を自由に操作することで,スポーツ熟練者の優れた予測に,“いつどのような情報”が利用されているのかを解説していただきました。実際の実験刺激映像なども多くご紹介してくださり,具体的な事例や実験参加者的な体験からスポーツ熟練者の予測や運動の卓越性を理解することができました。

2人目は,玉川大学脳科学研究所の武井智彦先生から,時間遅れを克服する中枢神経メカニズムに関する研究をご紹介くださいました。特に,体性感覚情報に基づく予測と運動制御に関する関係性について,神経科学的実験ならびに計算モデルを組み合わせた研究について紹介いただきました。実験計測で見られる外乱応答の変化を数理モデルのシミュレーション結果やパラメータと合わせて解説するとともに,脳の予測メカニズムに関して計算論と観測に基づく統合的な解釈を呈示いただきました。武井先生の実験や数理モデルに関する解説も非常に明快であり,神経科学的アプローチを用いた予測研究に関する理解が深まる貴重な機会となりました。

最後の総合討論では,「予測の機能からスポーツと視覚を考える」と題し,國分雅大先生からご自身のスポーツ選手の視線行動と状況判断特性に関する研究の紹介,ならびに登壇者の先生との質疑応答がありました。両名の先生から,自身のご専門の観点から見たスポーツとのつながりや今後の先生方の研究分野における展開についての回答があり,リアルタイムで研究に取り組まれている先生方の視座や考えを知る機会となりました。

個人的に興味深いと感じた点に,福原先生と武井先生のお二方とも,理論モデル・計算モデルに基づく理解および実践的研究をなされている点がありました。“巧みな運動制御を支える予測”というテーマに対し,実験データとその背後にある情報処理プロセスや脳内メカニズムを合わせて理解することで,現象的な記述にとどまらず,広くスポーツやヒトの予測の仕組みに迫ろうという試みがなされていました。自身の研究にも,こうした理論・計算モデルに基づく体系的理解や研究実践の必要性を感じ,非常に学びの多い時間となりました。




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