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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#759 日本スポーツ心理学会第50回記念大会での話題提供(身体化された認知とスポーツ心理学の接点)

9月29日~10月1日の3日間,東京大学駒場キャンパスにて,日本スポーツ心理学会第50回記念大会が開催されました。50回大会という記念の大会であることに加え,今年から学会の理事を拝命したこともあり,私にとってはいつも以上に重要な位置づけの会となりました。

今回私は学会最終日に開催されたラウンドテーブルディスカッションにて話題提供をしました。テーマは「身体化された認知とスポーツ心理学の接点」でした。心理学や認知科学による身体化された認知(身体性認知)をスポーツ心理学の問題としてどのように扱うべきかについて考える,というものでした。当日は荒木雅信先生(大阪体育大学/日本福祉大学)より全体像の説明が行われた後,渋谷賢先生(杏林大学)より「自己身体認知と運動」の問題,私から生態心理学的視点から見た身体性認知の話題,そして企画者である平川武仁(大阪体育大学)より,力学的視点からの話題が提供されました。

私の話題提供ではまず,スポーツ科学領域における身体性認知の定義の一例を示しました。それらの一部は,身体性認知の話題がスポーツ場面の意思決定と密接に関わることを示唆することを説明しました。次に,認知科学的(情報処理論的)視点と生態心理学的視点の違いについて説明,表象の存在を仮定するかどうかが決定的な違いであることを説明しました。さらに,生態心理学者の廣瀬直哉氏(大和大学)によれば,身体性(embodyment)には認知情報処理が身体化されている状態(embodyment)と,身体外のモノが身体化していくこと(embodying)の2つがあることを解説しました。こうした情報整理のもと,生態心理学はモノの身体化の理解にも大きく貢献しています。私の研究では,モノの身体化と身体運動に関する研究事例を紹介しました。

今回の50回大会に合わせて,記念本も出版されました。この分野で活躍される若手の先生が執筆担当にあたっています。私は30回大会の記念本を執筆担当したのですが,あれから20年もたっているのという事実に驚きつつ,この20年で経験した様々なことを思い出す機会となりました。

大会を運営してくださったすべての皆様に厚くお礼申し上げます。
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