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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#753 視線に介入することでDCD児のキャッチ動作を改善できた研究事例(Miles et al. 2015,ほか)

私たちの研究室では現在,不器用さの克服に資する知覚・認知的なアプローチに取り組んでいます。今回紹介するのは,発達性協調運動症(DCD)のある子供を対象に,ボールキャッチ動作の際の視線に介入することで動作改善ができたことを報告した2つの研究を紹介します。いずれもイギリスのExeter(エクセター)大学,Mark Wilson氏の研究室による研究です。

Miles CA et al. Quiet eye training facilitates visuomotor coordination in children with developmental coordination disorder. Res Dev Disabil 40, 31-41, 2015

視線介入として用いたのは,Quiet Eyeと呼ばれる視線行動に誘導するトレーニング法です。Quiet Eyeは,スポーツ熟練者が視覚運動制御において視線を一点に長く停留させる視線行動です。バスケットボールのフリースローの研究を皮切りに,様々なスポーツ競技において類似の現象が確認されています。この論文では,DCDの評価として用いられるMABC-2のボールキャッチ課題を評価対象として,視線介入の効果を検討しました。

30名のDCD児を対象とした実験の結果,投げ方の指導をしたグループに比べて,ボールを投げる際とキャッチする際の見かたを指導したグループのほうが,キャッチ成功率が上がることがわかりました。もともとDCD児におけるキャッチ時の動作特性として,関節をロックして動かさないような特性があることが指摘されていました。Miles氏らは,視線介入後,キャッチ時の肘の屈曲角度が大きくなったことから,捕球改善の背景には動きの改善があると指摘しています。

Quiet Eyeに基づく視線介入では,ボールを投げる際に的を長く見続けることが指導されます。Miles氏らは,視線を的付近に停留させることで,投げたボールがどのような軌道で壁に当たり,自分のもとに戻ってくるかを予測しやすくなり,ボールを正しく追従してキャッチしやすくなるのではないかと指摘しています。

Slowinski P et al. Gaze training supports self-organization of movement coordination in children with developmental coordination disorder. Sci Rep 9, 1712, 2019

Quiet eye に基づく視線介入により,キャッチ動作における運動の協調性が高まったことを明らかにした論文です。協調性は,ボールキャッチに関わる肩と肘の関節角度間の共変性(Covariation)を指標としました。ボールのキャッチ動作中の左右の肘・肩の角度を計測し,1組ずつペアにして,介入後に共変性がどの程度上がったかを算出したところ,視線介入群が,ボールの投げ方を指導した群よりも共変性が高くなっていることを確認しました。論文の中ではさらに,共変量のデータを使って多次元尺度構成法という多変量解析を用いて,介入が協調性にもたらした影響を記述しています。動作の協調性が確かに上がっていること数値的に証明しているという点で,非常に重要な研究です。

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