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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#743 第65回日本小児神経学会学術集会での話題提供「ヒトの協調運動の認知メカニズム」

5月25日から3日間,岡山コンベンションセンターにて第 65 回日本小児神経学会学術集会が開催されました。盟友である発達認知科学の研究者,北洋輔先生(慶応義塾大学)が企画してくださったシンポジウムで話題提供をいただき,参加をしました。ここではその発表概要を説明します。


シンポジウムのテーマは,「知っているようで知らない発達性協調運動症」でした。座長は加賀佳美先生(山梨大学医学部小児科)と,北洋輔先生(慶應義塾大学文学部心理学専攻)でした。話題提供として4名の発表がありました。

  • 柏木充先生(市立ひらかた病院小児科)「DCD の診断法 ―鑑別診断も含めて―」
  • 北洋輔先生「Movement ABC‒2 の日本人小児への適用」
  • 岩永竜一郎先生(長崎大学生命医科学域)「DCD 児への作業療法」
  • 樋口貴広「ヒトの協調運動の認知的メカニズム」
私の発表では,認知科学・身体運動科学分野での協調運動障害の理解について概説した後,現在行っている2つの研究の構想について発表しました。

協調性という言葉は元来Coordinationという言葉が対応していますが,運動制御研究では,Synergy(シナジー)という概念が,協調性(の少なくとも一部)を表すものとして使われ,研究対象となっています。私の研究室ではそうした背景のもと,「状況が変わっても,行為の目的を達成できるように動きを微調整できる力」に焦点を絞って協調性の問題を扱っていることを説明しました。

調整する力を維持するためには,運動の自由度が十分に解放されていることや,適切な動きを選択できる状況判断(選択後の未来を適切に予測できること)が求められます。DCDのある人は,運動の自由度が拘束されていることや,予測の困難性があることについて話をしました。

現在私の研究室で行っている研究として,協調運動障害の評価につながる研究(他者の行為予測課題を使うことで,内部モデル障害を評価する試み)と,協調運動障害への介入につながる研究(ボール捕球の支援に関する試み)について,その構想を説明しました。またこうした研究の先にあるビジョンや今後の課題についても説明しました。

最終日最後のセッションということで人が集まりにくい時間帯でしたが,60名近い方々が参加してくださいました。医師の先生たちが集まる学会で初参加となりましたが,好意的に話を聞いてくれる先生方が多く,心地よい雰囲気の中で,運動制御研究の動向を説明することができました。


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