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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#723 DCD児の運動改善のためのバーチャルリアリティの利用:その2(Cavalcante Neto et al. 2020)

前回に引き続き,発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)をもつ子供たちの問題改善として,バーチャルリアリティ(VR)環境下でのトレーニングの有用性に関する論文を紹介します。システマティックレビューの結果,VRトレーニングのエビデンスは必ずしも保証されないという結論を提示しています。

Cavalcante Neto JL Is virtual reality effective in improving the motor performance of children with developmental coordination disorder? A systematic review. Eur J Phys Rehabil Med 55, 291-300, 2019

この論文では,2006年から2017年に行われた,DCD児を対象にVRトレーニングを介入とする研究についてシステマティックレビューをしました。その結果,12編の論文が条件を満たしました。これらの研究におけるVRトレーニングでは,主として任天堂のWiiといったVRゲームが使用されています。

12編の論文のうち,方法論的な質の高い研究が7編,条件設定としての均質性が保たれている論文が3編と評価されました。残念ながら,これらの論文におけるVRトレーニング評価は必ずしも高いとは言えず,VRトレーニングのエビデンスは必ずしも保証されないという結論になりました。

最大の問題は,VRトレーニングと比較対象となるトレーニングにおいて,実践する内容が全く異なるため,仮に差が出たとしても,それがVRの効果といえるかが不明ということです。VRかどうかに関係なく,実践したプログラムの違いが差を生み出しただけ,という可能性を否定できません。ポジティブな結果ではありませんでしたが,今後の研究に対して示唆的な内容といえます。


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