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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#723 DCD児の運動改善のためのバーチャルリアリティの利用:その1(EbrahimiSani et al. 2020)

発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)をもつ子供たちの問題改善として,バーチャルリアリティ(VR)環境下でのトレーニングが有益であるという期待があります。ここでは2回にわたり, VRを用いたトレーニングについて検討した2つの論文を紹介します。今回ご紹介する論文は,介入効果があったことを報告しています。共同研究でお世話になっている北洋輔先生(慶応義塾大学)にご紹介いただきました。

EbrahimiSani, S et al. Effects of virtual reality training intervention on predictive motor control of children with DCD - A randomized controlled trial. Res Dev Disabil 107, 103768, 2020

EbrahimiSani氏らは,Xbox360 kinectを使ってスポーツ的ゲームを2か月間体験してもらうことにより,運動イメージ能力,行為計画能力,迅速な行動能力が改善したことを報告しています。

DCDの特徴を持つ7-10歳の40名の女児が対象者でした。うち20名を介入群に振り分け,週に2回,2か月にわたりスポーツ的ゲームを体験してもらいました。野球,バスケットボール,ボウリング,サッカーの4つのゲームを通して,オーバーハンド・アンダーハンドの投球動作,ドリブル動作,キャッチング動作,キック動作を遂行しました。

介入前後の評価として3種類の課題を行いました。運動イメージ能力の評価として,ディスプレイ上に提示された手が右手が左手化を判断するメンタルローテーション課題を行いました。行為計画能力の評価として,行為の最終形が快適な姿勢(End-state comfortable)となるようにナイフを把持し,穴に刺すことができるかを評価する課題を行いました。迅速な行為修正能力として,モーション・トラッキング課題という課題を行いました。

実験の結果,介入群では3つの課題いずれにおいても,介入直後並びに2か月後のフォローアップの段階で,コントロール群よりも成績が良いことがわかりました。

ゲームの中では,アバターを通してスポーツ動作を行います。著者らは,これが運動イメージ・運動観察としての効果を持ち,DCDがもつ問題とされる予測的な機能の改善につながっているのではないかと,EbrahimiSaniらは解釈しています。


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