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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#656 近視進行予防の国際スタンダード(「新しい眼科」特集号)

スマホやゲームばかりしていると眼が悪くなるよと,親の立場から子供に伝えることがあります。実際のところ,日常の生活習慣と近視進行のメカニズムはどの程度分かっているのでしょうか。今回紹介するのは,児童の近視進行に関する最新情報を眼科医の立場からまとめた,2020年出版の特集です。

特集「近視進行予防の国際スタンダード」,新しい眼科,37(5),503-588, 2020

特集ではまず,近視の発症と進行を抑制するためのアプローチを一次予防,二次予防,三次予防に分けて,それぞれの対策が説明されました(大野ら「総説:近視進行を抑制するための総合的アプローチ」)。一次対策とは,近視の早期発症の危険因子を同定して,事前に対処する戦略を練ることです。二次対策とは,近視が早期に発症した児童に対して進行を抑える対策をすることです。三次対策とは,近視が強度に至った後の対策をすることです。

特集号では,アジア先進諸国において国家レベルでの近視一次予防策が一定の成果を得ていることや,一定期間(1日2時間以上)の屋外活動が近視進行を抑える可能性があることなどの報告が概説されています。屋外活動の効果の説明として「網膜内での光誘導性ドーパミンの放出」説が紹介されました(大野ら「総説:近視進行を抑制するための総合的アプローチ」)。また長谷部聡氏によれば,近視進行のメカニズムは次のように考えられているとのことです。「発展途上にある眼球には,与えられた視覚的環境に合わせて眼球の形状(眼軸長)を調整する一種のホメオスタシス機能が備わっている。ここでは鮮明な網膜像が眼軸伸展の停止信号,網膜後方へのデフォーカスが眼軸の伸展を加速させる引き金(トリガー)の役割を果たす」(「近視進行の予防:多焦点メガネ,多焦点コンタクトレンズ,DIMSレンズ 」,p531)。

他にも,様々な話題が紹介されています。詳細はWebページをご参照ください。

私が大学で担当する授業のうち,教養レベルの学部生向け授業(科目名「認知と行動」,2021年度はオンライン授業で250名受講)では,視覚認知の問題をトピックとして取り上げています。授業の中では,盲点補完について説明します(網膜上には,光を取り込む細胞が存在しない場所が存在するにもかかわらず,日常生活の中では盲点の存在を意識することがない。これは,脳が周辺情報から盲点に投射されたであろう情報を推測しているから)。こうした際には,眼の構造についてもごく簡単に説明します。授業をしていると,近視進行のメカニズムについて話題にしたいと思うことも多く,今回の特集号を読むきっかけになりました。

日本スポーツ視覚研究会で日ごろからお世話になっている眼科医,枝川宏先生(えだがわ眼科クリニック)に,この特集号をご紹介いただきました。ここに記して感謝します。


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