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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#606 トレッドミル歩行にVR刺激を加えたトレーニングの転倒予防効果(Mirelman et al. 2016)

長期間にわたるトレッドミル歩行を用いたトレーニングには,一定の転倒予防効果があることが知られています。今回ご紹介するのは,歩行に同期して動くVR映像を付与することで,転倒予防効果がさらに高まったことを報告した論文です。5か国の研究者が各機関で測定を実施した,比較的大規模な研究です。

Mirelan A et al. Addition of a non-immersive virtual reality component to treadmill training to reduce fall risk in older adults (V-TIME): a randomised controlled trial. The Lancet 388, 1170-1182, 2016

参加対象のスクリーニングに通過した302名の高齢者が研究対象でした。参加者をトレッドミル歩行にVR映像を付与した群(VR映像群,平均年齢73.3 ± 6.4歳)と,トレッドミル歩行群を行った群(平均年齢74.2 ± 6.9歳)に分け,1セッション約45分の介入×週3回×6週間のトレーニングに参加してもらいました。

VR映像は,歩行中の認知的負荷を高めることを目的に作成されました。障害物を回避したり,複数の通路から1つを選んだりすることが求められる映像が提示されました。

トレーニング後の6か月間にわたって転倒発生率をフォローした結果,両群の参加者共に転倒発生率はトレーニング前よりも減少しました。特にVR映像群における転倒発生率の減少が顕著であり,減少率で見ると,VR映像群のみが統計的に有意な減少となりました。参加対象者には様々な属性の高齢者が含まれていましたが,特にパーキンソン病患者の転倒発生率が42%も減少したと報告しています。パーキンソン病患者の結果については,ベースラインでの転倒発生数が非常に多かったことで,結果が得られやすかったのではないかと考察しています。

トレーニング1週間後の歩行分析をしたところ,速度の上昇や歩幅のばらつきの減少など,歩行能力が総合的に高くなっているデータが得られました。著者らは,VR映像を使うことによる認知的負荷を加えた効果と,トレッドミル歩行を行う運動性の効果(ばらつきの減少効果)が,総合的に歩行能力の改善に結びついたのではないかと解釈しています。


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