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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#602 科学研究費成果報告会@京都大学


11月24日に,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究S,代表者:積山薫,京都大学教授)の成果報告会が開催されました。その概要を紹介します。

研究課題は「超高齢社会を生き抜くためのライフスタイル:脳・認知・運動機能の維持と向上にむけて」です。4名のメンバーから話題提供がありました。

山下雅俊氏(京都大学)は,生涯にわたる楽器演奏経験が高齢期の脳機能の維持に貢献できるかについて話題提供されました。65-85歳の音楽家と非音楽家の脳活動をfMRIを用いて比較した結果,長年の楽器経験は加齢による小脳・海馬・被殻など機能結合の低下を軽減する効果がある,と報告されました。

研究代表者の積山薫氏(京都大学)は,3カ月程度の運動介入や音楽介入(非音楽家である高齢者にピアニカを習得してもらう)の効果について報告されました。運動介入については,前頭前野の皮質容積の拡大が,認知課題成績の向上と高い関連が見られました。音楽介入については,3か月の楽器介入後に前頭前野などの脳活動が減少することから,神経処理効率化がなされたのではないかと報告しました。

3番目の話題提供者として,私から「高齢者の歩行と転倒」というテーマで話題提供しました。認知という観点から見ると,転倒を防ぐ一つのポイントは,歩行の調整力を維持することであり,そのためにどのような機能が必要なのかについて概説しました。その上で,衝突回避能力の向上に利用可能なバーチャルリアリティシステムの開発について,現在までの成果を報告しました。

山田実氏(筑波大学)は,要介護の状態になることを防ぐには,運動習慣,良い食事習慣,社会参加習慣の3つが重要であると主張しました。3-6か月程度おこなう様々な介護予防の介入も,継続しなければ,その効果は2年もすれば失われることがあるというデータを根拠に,継続の重要性を指摘しました。継続のためには無理ないところから始めることが重要であると述べています。

高齢者の方々も多く参加され,活気のある報告会でした。




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