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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#579  歩行中の着地位置の修正:3つのルール(Moraes et al 2014)

先日,人を避けるときの歩行軌道修正に関する研究を紹介しました。今回は歩行中に着地位置を修正する方略について,関連研究をまとめたレビュー論文の紹介です。

Moraes R. A model for selecting alternate foot placement during human locomotion. Psychology & Neuroscience 7, 304-314, 2014

歩行中に水たまりを避けるために足をつく位置は,本来どこでも良いはずです。しかし先人達の研究によれば,着地位置の修正にはある種の法則性があります。Moraes氏は自身の研究成果に基づき,着地位置の修正が3つの決定要因で決まると主張しました。

  • 効率性(最小偏差):minimum foot displacement
  • 前進維持:forward progression
  • 安定性:stability


着地位置の修正を最小限にできれば,修正に必要なエネルギー消費を最小限にとどめることできます。Moraes氏は,修正のための時間的余裕がある場合には,効率性ならびに前進維持を優先すると説明しました。

これに対して,着地の直前に犬のフンに気づいたなど,修正に時間的余裕がない場合,効率性の原理は働かず,安全性の原理に基づいて着地がなされると主張します。歩幅が広くなる着地を好むというのが,典型的な安全性重視の方略です。高齢者や脳卒中者について調べた研究によれば,たとえ時間的余裕があっても,安全性を優先する方略が取られるとのことです。

これらの情報に基づきMoraes氏は,環境の文脈や自身の歩行機能に応じて3つの決定要因の優先度(重みづけ)を変えながら着地位置を決定しているというモデルを提案しました。

Moraes氏はブラジルの研究者であり,大学院時代をカナダのAftab Patla教授の研究室で過ごしました。私がPatla教授の研究室にポスドクとして在籍していた時代と同時期に研究をしていた仲でもあります。元同僚の活躍に敬意を表しつつ,論文を紹介している次第でです。


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