HOME MEMBER RESEARCH PUBLICATIONS LINK CONTACT
Hotta-Hattori Laboratory
ADVANCED RESEARCH

ここでは、より進んだ研究の内容を紹介しています。

超伝導機構解明とは?
“三つ子”の超伝導はなぜ起こる?
軌道秩序の理論
アクチノイド化合物の磁性・超伝導


超伝導機構解明とは?
(以下の小文は、1997年11月に開かれた超伝導若手秋の学校における講義ノート のイントロダクションからの抜粋である。10年前の文章ではあるが、その問題意識 は今でも通用すると思われるので、ここに掲載することとした。)

超伝導とは、巨視的なスケールで生じる量子力学的現象である。それを 特徴づける本質的な現象として、マイスナー効果とジョセフソン効果がある。 前者は、巨視的な大きさの超伝導体内部には磁場が侵入できないという現象で あり、超伝導体全体が一つの量子力学的状態になっていることの現れである。 後者は2つの超伝導体を接合させたとき、位相差に伴う電流が流れる現象であり、 超伝導体が振幅と位相を有する一つの波動関数で記述されていることの直接的な 証拠である。

これらの現象は、秩序変数として巨視的な電子場を仮定すれば、2次相転移の 現象論である Ginzburg-Landau (GL) 理論によって理解される。 その巨視的電子場の正体は BCS 理論によって明らかにされた。 それによると、フェルミ面近傍の電子間に引力が働いている系においては。 たとえ引力がどんなに弱くとも電子は必ず対を形成し、フェルミ球は不安定 になる。 GL 理論において仮定された巨視的電子場というのは、まさしくこの電子対波 動関数であり、現象論的に導入された GL 方程式のパラメータも BCS 理論に よって微視的に決めることができる。 しかし、引力の大きさ、あるいは超伝導転移温度Tcそのものといっても よいが、それは BCS 理論の段階では依然パラメータに過ぎない。 BCS 理論において重要であるのは、電子間引力を仮定すれば超伝導現象は 全て説明できる、ということである。

電子間引力の起源として、BCS 理論は電子フォノン相互作用を想定していた. Tcに同位体効果が見られることから、電子フォノン相互作用が超伝導にお いて本質的な役割を果たしていることは BCS 理論以前から予想されていたのだ が、電子フォノン系において第一原理的な立場から Tc を決める処方せん は Migdal-Eliashberg (ME) 理論を待たねばならかった。 フォノンのエネルギーがフェルミエネルギー EF より十分小さい 断熱領域に制限されるものの、それは通常の金属であれば概ね満たされ ており問題はない。 中性子散乱の実験から決定されたフォノンのスペクトルとバンド計算の結果が あれば、ME 理論に基づいて、原理的にはパラメータなしにTc を決定することができるようになったわけである.

以上、これまでの超伝導理論の進化の様子をキーワードを添えて簡単にまと めると次のようになる。
(1) 実験事実:マイスナー効果。ジョセフソン効果。
(2) GL 理論:現象論。巨視的な電子場。
(3) BCS 理論:有効ハミルトニアン。対形成。
(4) ME 理論:第一原理ハミルトニアン。Tcの決定。

一見すると超伝導理論はこれで完成したかのように思える。 しかし、実はまだ不十分なものであることが、 重い電子系における超伝導や 銅酸化物高温超伝導 (HTSC) など一連の「強相関電子系の超伝導」の出現によって明らかになったのである。 これらの超伝導機構は従来の超伝導理論では説明されない、 というのはよく言われることであるが、 それでは一体どの段階に立ち戻って考えなければならないのだろうか?

超伝導が2次相転移現象である以上、GL 方程式の有効性を疑う理由はない。 つまり強相関電子系の超伝導でも、(2)の現象論の段階で議論することには 何ら問題はないのである。 但し、超伝導の秩序変数はハミルトニアンの持つ対称性に支配されているため、 2次相転移に際して破られる対称性はU(1)ゲージ対称性のみとは限らない。 この点は、重い電子系において群論に基づいて詳細に考察がなされ、 現象論の段階で非常に豊富な結果がもたらされている。 一方 HTSC に関して言えば、準2次元系で揺らぎが強いことなどから 磁束格子状態に対して新たな知見が得られている。

それでは(3)はどうであろうか? HTSC に対しては、エニオン超伝導理論など単に電子対の凝縮に依らない超伝導 の可能性も示唆されたが、シャピロステップなどの実験結果から、 HTSC においてもクーパー対が超伝導状態における電荷担体になっていることが 確認されており、基本的にはクーパー対のボーズ凝縮によるものと理解されている。 重い電子系の超伝導に対しても、磁束量子がh/2eとなっていることから クーパー対の存在は確認されており、加えてTcにおいて非常に大きな 比熱の跳びが観測されることから、電子間相互作用によって重くなった準粒子 そのものがクーパー対を形成していると考えられる。 但し、強い電子相関のためクーパー対の対称性は等方的な s-波ではなく、 電子が避け合うようにして対を組む p-波または d-波であると考えられている。 これは、低温において様々な物理量にベキ的な温度依存性が見られることなど からほぼ間違いないと思われる。 そこで p-波や d-波をもたらす引力相互作用を適当に仮定すれば, つまりTcの絶対値を問題にしなければ、 強相関電子系の超伝導に対しても BCS 理論の枠内で色々な物理量を 計算することが可能になる。 これによって p-波や d-波であることを活かした理論や実験、 例えば先にあげた低温での物理量の温度依存性、不純物効果、 クーパー対が内部位相を持つことによる特異なトンネル現象に関するものが 積極的に考案されており、 強相関電子系における超伝導の研究を非常に活発なものにしている。

しかし、HTSC の Tcはなぜ高いのか、 あるいは電子相関によって重くなった準粒子が一体どうやって対を組むのか、 という根源的なことを問題にすると、 引力相互作用を仮定する、あるいは Tcをパラメータとする(3)の段 階は意味をなさない。 それに答えるには(4)の段階に進まなければならないのだが、電子相関が強い 場合の超伝導に対してはこの段階が空白なのである。 すなわち、(4)の段階を明らかにすることこそが、強相関電子系の超伝導機構 の解明であると考えられる。 ここにはフォノン機構による超伝導も含まれることに注意して欲しい。 ME 理論はフォノンのエネルギーが EF より小さい断熱領域 でのみ妥当であり、逆に EF が小さく本質的に強相関電子系に なっている非断熱領域に対しては、 依然として有効な処方せんはないからである。

(4)の段階で超伝導機構を明らかにするというのは、 系を記述するハミルトニアンに基づいて、 様々な実験結果や正常状態の物性と矛盾なく Tc を理論 的に予測することに他ならない。 つまり, d-p モデルや周期的アンダーソンモデルといった強相関電 子系を表現する模型に基づいて Tc を実際に計算するのである。 その計算手法については様々なものが考えられるが、強相関電子系の超伝導も クーパー対のボーズ凝縮によるものである以上、 従来のグリーン関数法に基づく枠組で超伝導状態を議論するのが自然であろう。 もちろん、電子相関が強いために単純な平均場近似は適用できず、 それを越えた効果を何らかの近似によって取り込まなければならないが、 その妥当性には常に注意しなければならない。

なお、Tc というのは、様々な近似・仮定を置いて計算をした 最終結果であるため誤差が蓄積しやすく、定量的な議論は困難であることが多い。 しかし、そのことと (3)の段階で Tc の定量的議論に意味がないことを混同してはならない。 (3) においては Tc そのものがパラメータであるから、 その大きさを云々しても仕方がないのは当然であるが、 微視的なハミルトニアンから Tcを計算するということの目的は、 それで記述される系が超伝導になるのか、 なるとしたらどの程度の Tc を 持つのかを明らかにすることであり、問題の階層がそもそも違っているので ある。


“三つ子”の超伝導はなぜ起こる?
超伝導は、巨視的なスケールで生じる量子力学的現象ですが、そのような状態の出現は、マクロな数の電子が同じ状態に凝縮することを意味します。フェルミ粒子である電子がパウリ排他律を満たしながら凝縮する微視的メカニズムは、1957年、有名なBCS 理論によって見事に説明されました。この理論のポイントは、スピンが逆向きの電子2個ずつの対(ペア)をマクロな数だけ作り、それらボゾン的な振舞いをするペアを同じ運動量状態に凝縮させることにあります。

一般に、電子間にはクーロン反発力がありますが、結晶格子の振動を媒介とする有効的な引力が働き、対を形成することが可能になります。BSC理論で想定していたのは、格子振動に媒介された図(a)のようなs-波の電子対でした。その後、銅酸化物高温超伝導体などにおいて、結晶格子の振動ではなく電子スピンの揺らぎを媒介とするd-波の電子対が示唆されていますが、いずれにしても、スピンが逆向きの電子2個からなる一重項(シングレット)対であることには変わりはありませんでした。ところが、最近、ルテニウム酸化物や一部のウラン化合物において、スピンが同じ向きの電子2個から成る三重項(トリプレット、三つ子)の対が生じていることが実験的に明らかになってきました。このとき、対波動関数は、空間反転に対して奇のパリティを持つp-波となります。

さて、このようなスピン三重項対形成の起源の一つとして、原子内のフント結合が考えられます。 フント結合は、異なる電子軌道間のスピンを揃えるので、局所的なスピン三重項形成には有利に 働きますが、同一原子サイト上で有限の対振幅が生じるために、奇パリティが説明できないという 問題がありました。 そこで、さまざまなタイプの格子上で、軌道自由度のある理論模型を数値的に解析しました。 その結果、図(b)の蜂の巣格子のように反転中心が格子点上にないような非ブラベ格子であれば、 フント結合による局所的なスピン三重項が単位胞内で反結合状態を取ることができ、 奇パリティスピン三重項対が現れることがわかりました。 ウラン化合物UPt3やUGe2においてスピン三重項対が示唆されていますが、 これらの結晶は 非ブラベ格子なので、このシナリオが適用できる可能性が考えられます。



電子対波動関数の模式図と蜂の巣格子上の理論模型の相図。
(a)さまざまなタイプの電子対波動関数。BCS理論では、電子格子相互作用によるスピン一重項s-波対を想定していました。 銅酸化物高温超伝導体などでは、電子が避け合いながら対を組むスピン一重項d-波対が実現しています。 スピン三重項対の場合は、空間反転に対して奇のパリティを持つp-波状態となります。 (b)蜂の巣格子上で理論模型を数値的に解析して得られた相図。灰色は非物理的な領域です。 強磁性相の中で、奇パリティをもつ超伝導状態が可能になります。 蜂の巣格子の単位胞は2つの原子サイトを含みますが、×で示したように、反転中心は単位胞内の2つの原子サイトの真ん中にあります。 このような場合、フント結合による局所的なスピン三重項は、単位胞内で結合および反結合状態を取ることができ、 それぞれ、偶および奇のパリティとなります。


軌道秩序の理論
(マンガン酸化物を舞台にした「軌道秩序の理論」は、 平成16年度第8回久保亮五記念賞の受賞対象となった。)

マンガン酸化物の特徴は巨大な負の磁気抵抗効果にあるが、 その現象自体は1950〜60年代には既に知られており、 後述するように、「二重交換相互作用」という概念によって、 そのメカニズムも基本的には理解されていた。 近年、銅酸化物超伝導体の研究で培われた高品質の単結晶試料作成技術 や高精度の実験手法を駆使してマンガン酸化物についても見直しが行われ、 その結果、さまざまなスピン・電荷・軌道秩序パターンの再確認や新発見がなされた。 磁気抵抗効果について言えば、電気抵抗の変化が何桁にも及ぶような「超巨大」 磁気抵抗 (Colossal Magneto-Resistance、CMR) 効果、そして 究極の磁気抵抗効果と言うべき磁場誘起絶縁体・金属転移が発見されるに至った。

この系を理論的に考える場合、出発点になるのは強磁性的な強いフント結合 を通して局在 t2gスピンと結合する遍歴的なeg電子の モデルである。 これは通常「二重交換模型」と呼ばれ、マンガン酸化物を研究する上での基本的な モデルになっている。 この模型に基づけば、負の磁気抵抗現象は、背景の局在t2gスピンを 強磁性的に揃えることよって eg電子の運動エネルギーを稼ぐ効果の 現れとして直観的に理解できる。 実際、La1-xSrxMnO3のキュリー温度は概ね ホールドーピングと共に上昇し、基本的にはeg電子の運動エネルギー によって決まっていると考えられる。

そうすると、マンガン酸化物の理論的研究はこの二重交換模型の定量的精密化 で十分なのではないか、との印象を受ける。 理論研究の大きな目標は新しい概念の確立にあるわけだから、CMR効果の定性的 な再検討はもはや必要ない、という見方もできるかもしれない。 確かに、断熱的連続性の精神に立ち、できるだけ簡単化されたモデルに基づいて、 一見複雑に見える現象の中に隠された統一概念を見つけ出すという考え方に立てば、 マンガン酸化物の本質は二重交換相互作用で尽きていると言ってもよさそうである。 しかし、実際のマンガン酸化物の相図はあまりにも複雑である。 それでは一体、この「複雑さ」をどう理解すればよいのであろうか。

一般に「複雑さ」は、系が2つ以上の対立する要素から構成されるときに現れる。 そして、それぞれの要素に特徴的な構造同士のせめぎ合いの結果、単一要素の系 では期待されないような模様が発現される。 二重交換模型の場合であれば、eg電子の運動エネルギーを有利にする強磁性構造と、 t2gスピンの磁気エネルギーの利得がある反強磁性構造との競合によって さまざまなスピン構造が生まれると考えられる。 しかし実際の相図には、それに加えて複雑な電荷・軌道秩序状態がみられる。 このような軌道自由度が絡みあった構造を理解するには、eg電子の 軌道自由度と結合するヤーンテラー歪みが重要な役割を果たすと考えられる。 実際、この「ヤーンテラー歪みと結合する二重交換模型」は、実験で見られる様々な スピン・電荷・軌道構造を無理なく再現することができ、そういう意味では、 マンガン酸化物に対するミニマルモデルであると考えられる。

実際のマンガン酸化物のスピン・電荷・軌道構造を示しながら、一体何が 問題なのか、もう少し焦点を絞って具体的に考えてみることにしよう。 La0.5Ca0.5MnO3や Nd0.5Sr0.5MnO3などの 比較的狭いバンド幅を持つ物質においては、いわゆる CE-タイプ反強磁性相 が基底状態に現れる。 この構造においては、t2gスピンがジグザグ型の1次元経路に沿って強磁性的に整列し、 電荷秩序状態はチェッカーボードパターンを作り、3x2-r2/3y2-r2タイプの 軌道整列がその電荷整列に付随している。 z-軸に沿っては、t2gスピンの向きは反対になるのだが、 電荷・軌道秩序はそのまま積層している。


x-y面内のチェッカーボードタイプの電荷整列のみに着目すれば、 長距離クーロン相互作用 V がこの電荷・軌道整列にとって重要 であるように思われる。 しかし、もし V が本質的に重要だというのならば、立方格子においては NaCl-タイプの電荷整列が生じるはずであるが、 実際にはそうなっておらず、z-軸方向に電荷が積層するのである。 それゆえ、マンガン酸化物における電荷整列を単純に V によって理解する ことはできない。 むしろ、V が存在するにも関わらず、なぜ電荷が積層するのか、 というのが正しい問いかけであろう。

そこで、下に示すような簡単化されたモデルで考えてみよう。


これは、二重交換相互作用によって安定化される遍歴的な強磁性と、 超交換相互作用によって安定化される絶縁体的な反強磁性の競合を含んでいる。 隣り合うスピンが強磁性にそろっていれば、電子は跳び移ることができるが(D=1)、 スピンが反強磁性的であれば、電子は跳び移ることはできない(D=0)。 スピンの反強磁性相互作用JAFが小さければ全体は強磁性になり、 大きければ反強磁性になることはすぐにわかるが、 ちょうど中間くらいの値のときはどうなるのだろうか。


さまざまなスピンパターンを発生させて全エネルギーを計算してみると、 あるJAFの範囲では、スピンが下の図のようにジグザグ状に配列した場合が基 底状態として得られた。これはまさにCEタイプ構造である。

このとき、eg電子は、ジグザグの鎖の上のみを動くことができる。 ジグザグ方向に沿って運動量を定義し、eg電子の分散関係を描くと、 下の図のようになる。 電子をサイトあたり0.5個つめたとき、つまり、x=0.5のときには大きなバンドギャップが 開くことがわかる。 この大きなバンドギャップが、このジグザグ構造のエネルギーを下げることになる。


ポテンシャルもないのにバンドギャップが開くのは不思議に思われるかもしれないが、 実は、電子の跳び移り積分には、軌道と方向に依存した位相因子が入っているのである。 つまり、ジグザグ構造が跳び移り積分を周期的に変え、それが周期ポテンシャルの役割を 果たすのである。 そして、x方向とy方向の進行波がぶつかりあって干渉効果によって定在波を作り、 その節の部分がちょうどジグザグのコーナーにくる。 これにより、電荷は直線部分に閉じ込めたほうがエネルギーが得だということになる。 直線部分に電荷を閉じ込めると、直線の方向に軌道が分極したほうが電子の 運動エネルギーは得をするので、x方向を向いているところでは3x2-r2 の軌道が、y方向を向いているところでは3y2-r2の軌道が安定化 されることになる。 電子の軌道による位相因子が周期ポテンシャルを誘発してスピン構造のジグザグの形を 決め、その形から、電荷と軌道の秩序パターンが決まってしまうわけである。

最後に、クーロン相互作用やヤーンテラー歪みも考慮した3次元モデルの計算結果を簡単に 紹介しておこう。 詳細は省くが、隣り合うサイト間のクーロン相互作用Vを入れても、CEタイプの電荷積層(CS)構造 が容易には壊れないことがわかるだろう。 電子の干渉効果によるバンド絶縁体状態の電荷閉じ込めの安定化エネルギーが、 クーロン力の損失を打ち消して電荷積層構造をもたらすと理解される。





アクチノイド化合物の磁性・超伝導
(日本原子力研究所在任時、j-j結合描像を積極的に活用して、アクチノイド化合物の 磁性や超伝導をd電子的な手法で微視的観点から理解する理論を展開した。 その仕事は、平成16年度日本原子力研究所有功賞特賞を受賞することとなった。)

周期表の原子番号89から103までの元素をアクチノイドと呼びますが、 このアクチノイドを含む化合物はさまざまな面白い物性を示します。 とりわけ、アクチノイド化合物の磁性や超伝導は、これまでの物性理論 の常識では理解できない場合が多く、それらの起こる仕組みを明らかに することが現在の物性科学における課題の一つになっています。

さて、原子の模式図として、中心に原子核があり、その周りを電子が 回っている、という太陽系のような図を描くことがあります。 太陽系における惑星にように、原子においても、多くの電子がいろいろな 軌道を描いて原子核の周りに存在しています。 アクチノイドイオンに含まれるたくさんの電子のうち、一番外側にある 電子は7種類の軌道の自由度を持ち、f-電子とよばれています。 これがアクチノイド化合物の磁性や超伝導を担う中心的な存在になっています。 このf-電子は、基本的には原子核の影響下にあるのですが、 一番外側にあるので、化合物のなかを動き回ることがあります。 f-電子がじっとしていれば問題は簡単なのですが、f-電子が動き出すと、 途端に問題は難しくなります。ある場所で先に問題を解いてしまうと、 f-電子がそこに出入りする度に問題を解き直す必要があり、f-電子の運動 を追いかけることができなくなってしまうからです。 この単純だけれども難しい問題は、これまできちんと考えられていませんでした。

そこで我々は、f-電子が一つだけ存在する問題を先に解き、その答えを 使ってf-電子の状態を考え直すことにしました。そうすると、f-電子が 出入りしても困ることはなく、一つのf-電子の状態の組み合わせで、 複数f-電子の状態もうまく再現できるからです。 これにより、アクチノイド化合物中のf-電子の運動や相互作用を簡単な 電子模型によって記述することに成功しました。 この電子模型の構築により、f-電子の個性を特徴付ける軌道の自由度が 物性に及ぼす影響を微視的観点から調べることができるようになりました。 一つは、f-電子系の超伝導機構の問題です。銅酸化物高温超伝導体や 有機超伝導体においては、電子のもつスピンの揺らぎが超伝導発現に 重要な役割を果たしていることが明らかになってきましたが、我々は、 f-電子系において「軌道の揺らぎ」が超伝導発現に関与している 可能性を提案しています。また、電子の占有する軌道が周期的に配列する 「軌道秩序」という現象を考え、これを背景として、ウラン化合物の 複雑なスピン秩序構造を解明することに成功しました。

現在、ネプツニウムおよびプルトニウムを含む超ウラン化合物の物性研究 への展開が図られていますが、そのような新しい超ウラン化合物の物性を 理論的に解明することが期待されています。


理論計算によって得られたウラン化合物のスピン・軌道構造の模式図。 色は2種類のf-電子の軌道を表し、矢印はスピンを表しています。

HOMEへ戻る
TOPへ戻る
RESEARCHへ戻る