セラピストにむけた情報発信



先を見越した動作計画力と実行機能の発達:両者は独立?
(Wunsch et al. 2016)




2018年2月12日
動作を開始する前に,動作全体のパターンを計算し,動作の最終的な状態(end-state)が最も快適な姿勢となっているように動作を計画することを,英語では「end-state comfort effect」といいます(ここでは頭文字をとって,ESC効果と呼びます)。本研究室の修了生である美野裕佳氏が修士論文にしていたこともあり,このコーナーでも何度か紹介しています。

今回ご紹介する研究は,3-10歳児を対象に,ESC効果の発達と実行機能(Executive function)の発達に有意な相関関係があるのかを,200名を超える児童を対象に検討した研究です。

Wunsch K et al. No interrelation of motor planning and executive functions across young ages.

ESC効果に基づく動作計画は,別の課題と同時に行うデュアルタスク条件では生起しにくくなります。こうしたことから,ESC効果に基づく動作計画には認知機能が関わっており,その候補として,実行機能があるのではないかと考えられています。そこで著者らは,ESC効果に基づく動作計画と,実行機能の働きを要するとされる課題の成績との相関関係を検討することにしました。

ESC効果を図るための典型的な課題として3種類の課題(バーを置く課題やおもちゃのナイフを穴に刺す課題など)が選ばれました。いずれの課題においても,動作の最終局面において親指が快適な方向となっている状態を,ESC効果に基づく動作計画と定義します。その上で,その出現率を「先を見越した動作計画力の発達」と捉えました。

一方,実行機能の働きを要する課題として,ハノイの塔課題など,やはり3種類の課題が選ばれました。

実験の結果,ESC効果に基づく動作計画力と,実行機能に関する課題の成績との間に,有意な相関関係は見られませんでした。この結果から,著者らは,先を見越した動作計画力は,実行機能とは独立した認知機能が関わっているのではないかと結論付けました。

また,この研究で特に驚かされたのは,ESC効果に基づく動作計画力を測定する3つの運動課題の間にも,有意な相関がみられなかったということです。この結果は,著者たちにも予想外の結果であったと思われます。ここで使われた3つの課題は,課題の性質こそ微妙に異なるものの,共通する特性を測定できる課題と認識されていました。今回の結果から,これらの課題は,単に先を見越した動作計画力が大きく反映されるだけでなく,課題依存的な特性が強く反映されるのだろうということが伺えます。つまり,課題の選択にあたっては,どの課題を選んでも同じというわけではなく,課題が要求する動作の質を吟味する必要がある,ということになります。


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