セラピストにむけた情報発信



先を見越した動作計画の発達:システマティックレビュー(Wunsch et al. 2013)




2016年4月4日
前回に引き続き,動作の最終的な状態(end-state)が最も快適な姿勢となっているように動作を計画すること(end-state comfort効果)についての論文紹介です。今回紹介するのは,発達研究についてシステマティックレビューをした研究です。

Wunsch K et al. A systematic review of the end-state comfort effect in normally developing children and in children with developmental disorders. J Mot Learn Dev 1; 59-76

これまでの発達研究から,先を見越して動作を計画する能力は,必ずしも先天的に備わっているのではなく,発達に伴って獲得されるものではないかと考えらえています。しかし,研究報告によって,年齢に伴う能力の変化について非常に大きな違いがあることから,システマティックレビューによって整理しようというのが,この論文の目的でした。

膨大なデータの精査に基づき,最終的に13の論文が選ばれました。

著者らはまず,研究で扱われる課題を3つのタイプに分けました。①棒の移動課題(机と平行に置かれた棒をつかんで,スタンドに立てる),②ハンドル操作課題(時計の文字盤のような基盤の上に,自由に回転できる操作物がある),③コップ課題(水をそそぐためにコップを操作する)という3つです。

課題の違いが結果にどのように影響するかも含めて総合的に評価した結果,以下のようにレビュー結果をまとめています。

まず,おおむね5-8歳頃の発達が比較的研究著であること,また,6歳頃までと10歳ごろまでで2段階の成長があるのではないか,というのが,多くの論文を俯瞰してみた際に見えてくる共通性です。また研究によっては8歳頃の成績低下(伸び悩み)を指摘する場合があり,それが脳の可塑性と関連する現象ではないか,という議論もありました。

課題の影響については,①の棒の移動課題が,子供でもend-state comfort効果に基づく動作計画を行う割合が比較的高くなっていました。逆に②のハンドル操作課題については,子供ではend-state comfort効果そのものが認められないという報告もあるなど,研究による結果の違いが顕著でした。

著者らは,研究による結果の食い違いをもたらしうる媒介要因についても候補を挙げています。

直感的に考えれば,「日常経験に基づいて先読みした運動計画ができるようになるならば,日常経験で慣れている課題であるほど,end-state comfort効果は顕著にみられるはず」ということになるでしょう。しかしレビューの結果は,必ずしもそのような直感的な説明だけでは,結果の食い違いを説明できませんでした。

著者らは課題の親近性以外にも,媒介要因として,先読みすべき行為のシークエンス数,操作する物体の回転量,動作の精緻性がどの程度求められるか,操作に対するモチベーションなどのような要素を挙げ,その根拠について説明をしています。

end-state comfort効果の発達研究については,数は少ないながらも,学習障害児や自閉症児を対象とした研究もあります。こうした研究の詳細についてご関心のある方は,是非原著論文を読んでみてください。

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