セラピストにむけた情報発信



脳性まひ児における姿勢保持のための感覚情報の利用:システマティックレビュー
(Pavao et al. 2015)




2015年9月14日
前回に引き続き,脳性まひ児に関する論文の紹介です。

脳性まひ児の中には,感覚情報処理に障害を呈する場合があります。その結果として,姿勢の保持にも悪影響が見られることがあります。

今回ご紹介する論文では,具体的に感覚情報処理に関するどのような障害が,姿勢の保持に悪影響を及ぼすのかについて,論文のシステマティックレビューにより検討しました。

Pavao SL et al. Use of sensory information during postural control in children with cerebral palsy: systematic review. J Mot Behav 47, 291-301, 2015

論文データベースの中から,「脳性麻痺」,「姿勢制御」,「感覚」というキーワードを用いて論文を検索し,内容を精査することで正式にレビューする論文を決定しました。キーワード検索のレベルでは600近い論文がヒットしましたが,最終的には,11の論文だけが,条件を満たす論文として正式に採用されました。

この11の論文を概観した結果,いくつかの特徴が明らかになりました。

まず,脳性まひ児は,感覚情報の変化に対する応答性が低いことがわかりました。たとえば,立位姿勢制御の最中に床面が前後のいずれかに動くと,バランスを大きく崩しそうになります。通常は,バランスを崩しそうだという情報が感覚情報として入力され,姿勢を元に戻すための様々な行動が見られます。脳性まひ児の場合,こうした応答的な行動が,健常児に比べると顕著には見られないことを示す研究が多くありました。

次に,脳性まひ児が視覚情報に依存して姿勢を制御している傾向があることが示唆されました。この示唆は,視覚情報を遮断した時の悪影響が大きいことや,壁が動くことによる視覚的な変化に対する応答が大きいことに基づいています。

また,全ての研究が,静止立位時,もしくは座位時の姿勢制御に着目しているため,歩行時や,座位から立位への移動時など,よりダイナミックな特性を持つ場面での姿勢調節と感覚障害の問題については,検討されていないということが指摘されました。

システマティックレビューによって多くの研究を概観することにより,脳性まひ児が全体としてどのような感覚情報処理の問題を抱えているのかを理解することできます。また,研究がされていない問題を顕在化させるという意味もあります。

今回ご紹介した論文の場合,結果的に使用された論文が少ないことや,個々の論文での参加者の数がどうしても制限されてしまうことから,この結果を鵜呑みにしてはいけない部分もあるでしょう。しかし,信頼性の高い11の論文を短時間で概観できるというだけでも,一定の価値があると言えるでしょう。


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