セラピストにむけた情報発信



高齢者におけるメンタルローテーション能力とバランス能力の関連性
(Jansen et al. 2013)




2015年1月16日

今回ご紹介する論文は,高齢者を対象として,メンタルローテーション能力の一側面とバランス能力との間に一定の相関関係があることを示した論文です。

Object-based and egocentric mental rotation performance in older adults: the importance of gender differences and motor ability. Neuropsychol Dev Cogn B Aging Neuropsychol Cogn 21, 296-316, 2014

対象は,60歳から71歳までの高齢者60名でした。メンタルローテーション課題として,3種類の課題が用意されました。第1の課題では,回転した状態で左右に並んで呈示される2つの英字が,同じか異なるか(通常の文字の場合と鏡文字の場合がある)を判断しました。第2の課題では,右手または左手を上げている男女の写真が同じか異なるかを判断しました。第3の課題では,男女の写真が右手を上げているか,もしくは左手を上げているかを判断しました。

第2・第3の課題は,身体刺激を用いています。そして第3の課題は,先行研究に基づけば,運動実行に関わる認知神経機構が課題遂行に関わることが期待されます。これらの課題(特に第3の課題)に,バランス能力との関連性が期待されました。

バランス能力の評価として,片脚立位バランス課題,Timed Up and Go課題,そして,Chair stand課題の3つが用いられました。いずれも高齢者のバランス能力評価として一般的に用いられる課題です。

実験の結果,メンタルローテーションの一部の側面について,バランス評価との関連性が見られました。メンタルローテーション課題の正答率は,3つのバランス評価のいずれに対しても,中程度の相関がみられました。また多変量解析の結果,片脚立位課題の成績に基づいて,第2の課題(身体刺激に対する異同判断)の正確性の22.8%を予測できることがわかりました。

その一方で,通常メンタルローテーション課題では反応時間が主たる指標となりますが,反応時間についてはバランス能力との関連性は見られませんでした。

以上の結果から,両者には関連性が見られたものの,その関連性は限定的であるということができます。先行研究に基づけば,3種類のメンタルローテーション課題のうち,第3の課題にこそ,バランス能力との関係性が期待されましたが,結果はそのようにはなりませんでした。残念ながら,この点については著者の明快な解説はありませんでした。

私の研究室を修了した理学療法士の川崎翼氏は,博士課程時代の研究テーマとして,メンタルローテーション能力と立位バランス課題との関連性について検討を行いました。若齢者のみを対象とした研究でありましたが,両者には一定の関連性が認められました。今後,こうした実験パラダイムを高齢者に適用させ,両者の関連性が高齢者にもみられるのかについて,今回の論文と別の視点で検討してほしいなと思っています。


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