セラピストにむけた情報発信



物体のアフォーダンスを知覚する脳:時間的側面(Proverbio et al. 2011)




2014年11月1日

2週前の紹介に引き続き,物体がもつアフォーダンスの知覚を支える脳活動に関する研究紹介です。今回は,脳波を使って脳活動の時間的側面について検討した研究です

Proverbio et al. 250ms to code for action affordance during observation of manipulable objects. Neuropsychologia 49, 2711-2717, 2011

何かをしている時の脳活動を測定する装置の代表格といえば,MRI(fMRI)とも言えます。確かに,脳活動の空間的な特性を把握するには,MRIは素晴らしい装置です。ただ,脳活動の時間的特性を探るには,少し問題があります。そのため,ある刺激を受けてから何ミリ秒後に,脳の各部位に活動が生じるかといった問題については,脳波を使って検討します。

この研究でも脳波を使って,手で操作する物体を見た直後の脳活動を調べることにしました。15人の健常学生(全員右利き)が対象でした。

手で操作する物体とは,握る,指で触るなど,物体の特性を生かすのに手の操作が直接関与する物体です。たとえばブラシ,タイプライター,ルービックキューブなどが実験刺激として使われました。

比較対象は,手で操作することがその物体の直接的な存在意義に関わらないもの(非操作物体)でした。たとえば大型スピーカーパソコンディスプレイ,花瓶,まくらなどが実験刺激として使われました。もちろんいずれも手で触って所定の位置に設置しますが,手で操作すること自体には,その物体を使うことの本質的意義がありません。

両条件での脳活動を比較した結果,手で操作する物体に特化した脳活動は,物体の映像を呈示してからおよそ250ミリ秒(210-270ミリ秒)に起こりました。このタイミングで,特に左の中心前回(left precentral gyrus)に活動が見られました。そしてその直後(刺激呈示から550-600ms後)に,左右の運動前野に活動が見られました。なお,操作・非操作に関わらず物体認識に関わったのは,後頭葉と側頭葉でした。

実際の運動に関わる脳の前頭部や運動前野に関わるという意味では,リーズナブルな結果であると思います。またこうした活動が特に左の脳活動優位であるという事が,おもしろい結果であるように思います。

この結果は,右利き対象者を対象にしたことによるのでしょうか?それとも利き手に関係なく,操作物体を表象する脳部位なのでしょうか?次回,こうした疑問に対して著者らが行った研究例を紹介します。


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