セラピストにむけた情報発信



物体のアフォーダンスを知覚する脳部位?(Schubotz et al. 2014)



2014年10月20日

アフォーダンス(Affordance)は,生態心理学を象徴する概念です。アフォーダンスとは,行為者の身体・行為特性(action capabilities)と環境の特性(environmental properties)の適合性に基づく,環境の性質です。生態心理学によれば,ある物体を見たときに,その物体に対してどのような行為をすべきかについては,物体のアフォーダンスを知覚することで決定されます。

生態心理学が登場した当初は,脳の情報処理論に依拠する認知科学とは全く相いれない領域のように思われました。しかし最近では,アフォーダンスの知覚に関わるような脳活動を検討するような認知科学研究が多くなってきました。

今回ご紹介するのは,こうした認知科学研究です。オープンアクセスの雑誌ですので,興味のある方はどなたでも無料で閲覧できます。

Schubotz R et al. Object Objects tell us what action we can expect: dissociating brain areas for retrieval and exploitation of action knowledge during action observation in fMRI Frontier Psychol 5, 636, 2014

この研究が目指しているのは,物体を見た瞬間に,関連する行為を検索していく脳活動部位の同定です。アフォーダンスの発想と非常によく似ていますが,厳密に言えば,物体が行為を引き出すための要素として想定するものが,生態心理学におけるアフォーダンスとは異なります。

生態心理学におけるアフォーダンスの場合,行為が引き出されるのは,物体の持つ特性(大きさや形状など)と身体の特性の“相性”によると想定します。しかし今回ご紹介する研究をはじめ,認知科学的な研究では,行為が引き出されるのは,日常経験に基づく記憶,つまり高次認知機能の働きによると想定します。

この研究では,ある物体とその物体を使う道具をセットにした映像が流れました。セットによっては,行動が1つにしか決まらないものとそうでないものがありました。たとえば,鉛筆と鉛筆削りのセットの場合,鉛筆を削るという行為しか考えられません。しかしリンゴとナイフのセットの場合,リンゴの皮をむく行為と,リンゴを切る行為の最低二つが想起されます。実験の第1の目的は,行動のレパートリーが増えるセットに対して強く活動する部位を見つけることでした。

その結果,行動のレパートリーが増えるセットに対して強く活動を示したのは,後頭頂葉でした。この領域は道具の使用にも関わる領域ですので,特に強く活動したのかもしれないと著者らは考えました。

さらにこの実験では,各セットに対して自然な動作をする場合と,不自然な動作をする場合とで,脳活動を比較しました。たとえばリンゴとナイフのセットに対して,皮をむく動作をするのは自然ですが,鉛筆を削る動作をするのは不自然です。自然な動作を観察するだけで,運動の実行系が賦活するだろうことが,運動観察に関する先行知見からわかっているため,自然な動作で特に強く活動する部位が,行為のレパートリーの中で実行する行為を選ぶことに関わるのではないかと考えたわけです。

その結果,特に行為のレパートリーが多いセットの中で,自然な動作の活動中に強く活動したのは,運動前野腹側部でした。

これらの結果から著者らは,日常経験に基づいて,物体を見ただけで行動がすぐに引き出される背景には,行動のレパートリーを選ぶ頭頂葉の活動と,その中で最適な行動を実行する運動前野腹側部の活動があるだろうと結論付けました。

実際には,この2つの主要な脳部位以外にも,様々な脳活動が関わっていそうです。ご関心がある方は,ぜひ原著論文をご覧ください。

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