2013年3月19日
隙間通過時の接触回避行動は、私たちの研究室における重要な研究テーマのひとつです。赤ちゃん研究で著名なKaren Adolph氏のもとで研究をしているJohn
Franchak氏も、このテーマに基づき優れた業績を上げている若手研究者の一人です。(参考文献はこちら)
本日ご紹介するのは、Franchak氏が隙間通過時の接触回避について、側面の接触を体幹回旋により回避する場合と、頭上の接触を頭を屈めて回避する場合の行動特性について比較検討したものです。
Franchak JM et al. Perception of passage through openings depends on the
size of the body in motion. Exp Brain Res 223, 301-310, 2012
狭いドア型の隙間をすり抜けることと、天井が低い隙間を頭を屈めて通り抜けることは、行動としては全く異なるものです。この研究で検討したかったことは,こうした2つのことなる行動にどの程度の共通性が見られるのかということです.接触を回避するための空間マージンのとりかたや、実際に通り抜ける行動と歩き始める前に隙間に対してなされる知覚判断(通り抜けられるかどうかの判断)の共通性を比較検討しました。実験対象者は若齢健常者24名でありました。
実験の結果、2つの行動は、接触を回避するための空間マージンのとりかたに比較的顕著な違いがあることがわかりました。
ドア型の隙間をすり抜ける場合には、肩幅のおよそ1.1倍より狭い隙間に対して体幹の回旋をおこない、身体とドアの間に4cm程度の空間マージンを取るよう調節していました。これに対して頭上の障害物をよける場合には、ごくわずかながら、身長よりも低い高さでようやく頭を屈め始めることがわかりました。隙間を通過する際の頭上の障害物と頭の間にある空間マージンもほとんどありませんでした。
Franchak氏はこの結果に対して、歩行中の側方と上下の”揺れ方”の違いが反映されているのではないかと考えました。
すなわち、歩行中は片足加重している際に身体が側方へ揺れ動きます(Lateral sway)。上下方向にも身体は揺れ動きますが、その上下動はあくまで身長の高さを上端として、沈み込む方向の動きです。こうした動きの特性から、側方方向にはより大きなマージンを取らないといけないのではないかとFranchak氏は主張しました。
Franchak氏はこうした考察に基づき、隙間通過行動は行為空間(action space)に基づき制御されていると結論づけました。
こうした結果と別にFranchak氏は、実際に隙間を通り抜ける際に回避行動をとり始める隙間の大きさと、行動と歩き始める前に回避行動が必要と感じる隙間の大きさの知覚判断が、驚くほどに一致していることを報告しました。これについては個人的にやや驚きの結果であり、個人的な経験とも少し異なるものでした。知覚判断時の隙間との距離が2.5mとやや近いことが、影響しているのかもしれないなと思いました。
Franchak氏とは直接的な研究交流はありませんが、お互いに研究論文を引用しあう立場にあります。中立的な立場から我々の研究に対してコメントしてくれることで、いつもよい刺激をもらっています。こうした刺激を常にもらい、研究を発展させる上でも、引用に値すると思ってもらえる論文を出し続けることが重要であると改めて思いました。
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