セラピストにむけた情報発信



高齢者が抱えるつまずき後の動作修正の問題:レビュー
(van Diene et al. 2005)




2010年6月14日

数回前に,高齢者のまたぎ動作に関するレビュー論文をご紹介し,歩行中の転倒要因に関してのレビュー内容ついてご紹介しました(Galna et al. 2009).今回ご紹介するのも同様のレビュー論文ですが,特に障害物に対するつまずき(trip)が起こった後の修正について多くの示唆があります.

van Dieën JH et al. Age-related intrinsic limitations in preventing a trip and regaining balance after a trip. Safety Sci 43; 437–453, 2005

以前ご紹介したGalna et al (2009)では,レビューのための明確な選定基準を事前に設定して,機械的に論文を選ぶという形式のレビューでありました(systematic review).これに対して今回は,高齢者の転倒に関する様々な知識を網羅的に扱ったレビュー論文です.実際この論文では,80以上の論文が引用され,高齢者の転倒に関する様々な情報が掲載されています.

冒頭にも述べたようにこの論文では,障害物に対するつまずきが起こった後,バランスを立て直すための動作修正にレビューの力点が置かれています.これは,著者自身がおこなっている研究がこうした問題を中心的に扱っているからに他なりません.

つまずいた後の動作修正について,この論文のように網羅的に,かつ読みやすい文書で平易にまとめられているレビューはあまり多くありませんので,こうした問題に興味がある方には推薦できます.

私の個人的な研究の興味は,著者らと異なり,つまずき自体が起こってしまう原因にありますので,この部分についても合わせて注目しながら論文を読みました.

その原因は歩行パターン,障害物回避動作の特性,視覚的問題,認知的能力の低下の4つに大別され,ここに説明がされました.残念ながら個々の原因についてのレビューには,お世辞にも充実しているとはいえないため,あくまでこうした4つの枠組みがあることを理解した上で,別のレビュー論文で情報を抑える必要があります.歩行パターン,障害物回避動作の特性については,前回ご紹介したGalna et al.の論文が参考になります.

このように,同じ問題を扱うレビュー論文でも,その目的やレビューの方法によって,得られる情報が全く異なる場合があります.そうしたレビューの特性を理解しながら,適切なレビュー論文に巡り合うことで,数多くの情報を効率よく収集することができます.



(メインページへ戻る)