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北山研究室の研究成果
研究方針 □ 2008年度研究成果

(1) 下階壁抜け柱に隣接して連層鉄骨ブレース補強を施したRC立体骨組の地震時挙動に関する実験研究

北山和宏・林 秀樹

 既存鉄筋コンクリート(RC)建物における下階壁抜け柱の圧縮軸耐力不足の際には、軸崩壊防止のための補強を兼ねて連層鉄骨ブレースを当該柱に隣接して設置することがよく行われる。この場合、鉄骨ブレースと直交する方向の水平力により下階壁抜け柱の軸力が大きく変動する。また下階壁抜け柱は鉄骨ブレースからの軸力変動を受けるため、鉄骨ブレースによって下階壁抜け柱の軸崩壊を加速させることも生じ得る。そこで下階壁抜け柱に隣接して連層鉄骨ブレース補強を施したRC立体骨組試験体1体に対して、鉛直・水平二方向の計三方向の外力を与える静的実験を2007年度に実施した。

 試験体は実物の約1/4スケールで、桁行方向の中央スパンを連層鉄骨ブレースで補強した2層(階高800mm)のRC立体骨組である。桁行方向は3スパン、張間方向は1スパンで、スパン長はともに1000mmである。張間方向には下階壁抜けフレームを設け、鉄骨ブレースが取り付く1層柱を下階壁抜け柱とした。実験では、中央スパンの連層鉄骨ブレースを含むRC骨組が全体曲げ破壊した。本年度には、その結果を詳細に分析して以下の結論を得た。

1) 耐震改修設計指針(日本建築防災協会)に基づく計算では,RC付帯柱の引張り耐力によって連層鉄骨ブレースを含む部分架構の全体曲げ強度が決定した。実験でも付帯柱の全主筋が引張り降伏したが,面外曲げによる軸力変動と直交部材による抑え込み効果によって付帯柱に作用する圧縮軸力が増大し、脚部コンクリートの圧壊によって補強建物の水平強度が決定した。そのため,正負載荷時の水平強度はほぼ同じとなった。また,多くの境界梁端部において主筋の降伏が生じており,最大水平耐力の直後に全体崩壊機構が形成された。

2) 水平二方向載荷時には,下階壁抜け柱の最大圧縮軸力よりも,2層の直交耐震壁が抑え込み効果を発揮する時に圧縮側となるブレース付帯柱の最大圧縮軸力の方が5%(約50kN)大きくなった。付帯柱の最大圧縮軸力と補強建物の最大水平耐力とは同時期に生じたが,その時のコンクリート圧縮応力度は下階壁抜けRC柱でコンクリート圧縮強度の0.92倍,もう一方のブレース付帯RC柱で0.97倍であり,共にコンクリート圧縮強度にほぼ達しており,付帯柱の圧壊によって補強建物の水平強度が決まったことと符合する。

3) 全体曲げ破壊において連層鉄骨ブレースの引張側付帯柱に耐震壁の抑え込み効果が発揮された時,抑え込み作用として耐震壁に生じる鉛直せん断力は、鉄骨ブレースの圧縮側付帯柱に圧縮軸力として伝達される。そのため、二方向水平力を受ける補強建物において連層鉄骨ブレースが全体曲げ破壊する場合には,ブレースに隣接する下階壁抜け柱だけでなく,他方のブレース付帯柱についても作用する圧縮軸力に注意すべきである。

4) 連層鉄骨ブレースを下階壁抜け柱に隣接して設置することによって,下階壁抜け柱のコンクリートが負担できなくなった圧縮軸力をブレース縦枠が代わりに負担し,水平耐力の急激な低下を防いだ。

5) 実験における限界変形は耐震診断基準(日本建築防災協会)による終局変形よりも正方向載荷で1.8倍、負方向載荷で2.2倍大きかった。これより耐震診断基準は、下階壁抜け柱に隣接して連層鉄骨ブレース補強を施した立体RC骨組が全体曲げ破壊する時の終局変形を安全に評価できる。

(2) スリーブ継手で柱接合したプレキャストPRC骨組の耐震性能評価

北山和宏・矢島龍人・嶋田洋介・見波 進

 今まで当研究室では、プレキャストの通し柱にプレキャスト梁をPC鋼材で圧着接合したPC骨組の耐震性能について研究してきた。今年度はこれとは別に実際に建築される物件を想定して、プレキャスト梁を通し配置し、上下の柱をスリーブ継手で接合して一体にしたときの骨組の力学特性および耐震性能を実験によって検討する。実験では、実設計に沿って梁曲げ降伏が先行する試験体を検討対象とするとともに、このような構法によって組み立てられた外柱梁接合部パネルのせん断強度を調査するため、接合部パネルのせん断破壊が先行する試験体も計画した。試験体数は、平面十字形部分架構およびト形部分架構あわせて5体とした。本年度は試験体の設計および作製までを行い、実験は2009年度に実施する予定である。

(3) プレストレスト鉄筋コンクリート十字形部分架構における梁部材のひずみ適合係数に関する研究

北山和宏・嶋田洋介

 プレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)骨組を構成する梁部材の復元力特性には、PC鋼材に沿った付着性状が大きな影響を与える。PRC梁断面の曲げ耐力を求めるために、一般には平面保持を仮定した断面解析を行う。しかしながら丸鋼や鋼より線のようなPC鋼材に沿った付着は早期に劣化するため、平面保持の仮定から逸脱する。すなわち断面内の同位置のコンクリートひずみよりも、PC鋼材のひずみは小さくなる。PC鋼材に沿った付着劣化に起因するこのような現象を簡易に考慮するために、ひずみ適合係数F値が六車らによって提案されている。しかしひずみ適合係数F値の具体的な数値については、単純梁による実験によって検討されているだけで、実際の骨組内のようにPC鋼材が通し配筋された状態での検討は為されていない。そこで本研究では、PC鋼材が通し配筋された十字形部分架構における梁部材の実験結果より、ひずみ適合係数F値を算出して、その妥当性を断面解析によって検証した。

 検討対象としたのは梁曲げ破壊した平面十字形部分架構で、梁断面内のシース管内にグラウト材(圧縮強度65.1MPa)を注入したものとアンボンドとの2体である。PC鋼材のひずみはひずみゲージによる測定値を用いた。同位置のコンクリートひずみは、梁危険断面から50mm離れた位置の梁上下面に取り付けた変位計の出力から、この局所ヒンジ領域の曲率分布を矩形と仮定して算出した。これらのひずみから各載荷ステップ間のひずみ増分をそれぞれ求め、ひずみ適合係数F値を算定した。その結果、グラウトを施して付着のある梁部材においては、PC鋼材が降伏したときのF値は0.20となった。これは単純梁を用いた実験で得られた数値(0.4から0.6程度)よりも相当に小さい。十字形部分架構における梁部材においては、通し配筋されるPC鋼材が柱梁接合部内で付着劣化を生じてすべるので、PC鋼材のひずみが単純梁と比較して小さくなったためと考えられる。アンボンドの梁部材においては、実験ではPC鋼材は降伏しなかったが、算出したひずみ適合係数F値は0.03に収束した。これもアンボンドの単純梁を用いた実験から得られた数値(0.1から0.2)よりも小さい。

 こうして得られたひずみ適合係数F値を用いて断面解析を実施し、実験結果と比較した。最大耐力までは、解析が実験結果を良好に再現できることを確認した。


(4) 既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造(WPC)集合住宅の耐震診断と大規模改修に関する研究

北山和宏・今泉麻由子・高木次郎・見波 進・小泉雅生

 現在、日本には約110万戸の既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造(WPC)の集合住宅が存在しているが、それらの半数以上は築30年から40年を経過し、現代の多様な住様式に適合できないものも多い。そこでこれらの既存集合住宅に対して、居室面積の増減のみならず、一部に別用途の居室(保育園、デイ・ケア・サービスセンター等)を用意するコンバージョンや、コレクティブ・ハウジングを可能とするような大規模改修といった要望が潜在的に存在する。

 このような要望に応えるためには、耐震壁や床スラブに開口を設置することがほぼ必須である。このとき、現状のWPC建物の耐震性能を把握するとともに、これらの構造的な改修を施した際の耐震性能をも正しく評価することが重要である。また、耐震壁に開口を設ければ耐震性能は明らかに低下するので、それを補うための耐震補強工法の開発とその性能評価も要求される。

 そこで本年度は、実在する5階建てWPC集合住宅の耐震二次診断を行い、現状の耐震性能を把握するとともに、張り間方向のプレキャスト版(PC)耐震壁に開口を設けたときの性能を耐震診断によって検討した。なお、耐震診断は「既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針」(第2版3刷、日本建築防災協会、2008年)によって行った。また耐震性能判断のための閾値として、構造耐震判定指標Isoを0.6、終局限界時の累積強度指標と形状指標との積CTUSDを0.45 と設定した。得られた知見を以下に示す。

1) 桁行方向について: 曲げ壁が支配的であり、1階から3階までの構造耐震指標Is値は0.8程度でほぼ同じであった。終局限界における累積強度指標CTU値は3階で最小の0.53となるが、閾値より大きかった。1階のみ強度抵抗型で、2階以上では靭性指標F値が1.5のときにIs値が決まっており、若干の靭性に期待する。

2) 張り間方向について: 構造耐震指標Is値は全階にわたって1.2以上あり、F=1.0のときの強度指標CT値(外力分布による補正を施した強度を当該階よりも上の建物重量で除したもの)も0.8以上あることから、十分な耐震性能を保有することを確認した。

3) 張り間方向の耐震壁2枚に開口を設けた場合には、1階のIs値が0.93と最も小さくなる。2階から4階では強度が7%程度低下して、Is値は現状の80%程度に低下して1.00から1.27となるが、いずれもIso=0.6を大きく上回った。

4) 開口を新設した場合に、PC耐震壁の曲げ強度およびせん断強度の耐震診断指針による評価式の物理的意味が失われることがある。当該指針は、規格的なPC版(例えば、セッティング・ベースはPC版の両端に存在する)を対象とした診断手法を提示しているため、既存のPC版に開口を設けた途端にこの暗黙のルールから逸脱するためである。

5) そこで、水平接合部(セッティング・ベース)の接合筋が引張に有効な曲げ補強筋となるように、壁の長さを当該指針による評価よりも短く仮定して、曲げ強度およびせん断強度を再評価した。その結果、当該指針に従うよりも、各強度が大きく評価される場合があることを指摘した。

(5)日本における初期鉄筋コンクリート建物の構造に関する研究

北山和宏・小太刀早苗

 日本において建物の全てを鉄筋コンクリート造で構築した建物は、遠藤於菟設計の三井物産会社横浜支店(1911年竣工、地上4階、地下1階)であると言われている。そこで遠藤於菟が残した配筋図や論文をもとにして、当時のRC建物の構造の様態を調査した。

 柱や梁部材の配筋は、基本的にはHennebique式であるが、遠藤於菟独自の工夫と思われる配筋詳細が垣間みられる。例えば梁のスターラップの一部は、Hennebique式の標準である上下の主筋1本づつを帯鉄で結ぶ形態ではなく、断面全体にわたってU字形で配されており、現在一般に用いられる閉鎖型の形状への過渡的な状況にある。また柱(470mm角の正方形断面)のフープは、Hennebique式では鉄板を用いるが、ここでは直径11.7mmの鋼製ワイアを470mmピッチで4隅の柱主筋に巻き付けていた。梁の主筋には直径38mmの丸鋼が使われ、柱の主筋には22mmから38mmの丸鋼が使われた。梁のせん断補強筋比は0.16%であり、現行基準の最小配筋量である0.2%より若干少ない程度であったが、柱のせん断補強筋比は0.10%であり相当に小さい。また柱の全主筋比は1階では2.1%あったが、3階および4階では0.7%であり、現行基準の最小量である0.8%未満であった。梁部材にはハンチが付けられており、その部分には補強筋が配された。またHennebique式の特徴である折り曲げ主筋が梁部材に用いられていたことから、梁部材のせん断強度は相当程度に確保されたと考えられる。これに対して、柱部材のせん断強度を確保するための配慮が為された形跡はなく、20世紀の最初の10年においては、地震動による水平力に対するRC建物の抵抗機構については未知であり、水平力に対する設計も為されなかった、と判断できるだろう。

(6)梁曲げ降伏後に接合部せん断破壊するPRCおよびPC十字形部分架構の耐震性能評価

北山和宏・田島祐之

 プレストレスト鉄筋コンクリート構造(以下PRC構造)およびプレストレストコンクリート構造(以下PC構造)の梁曲げ降伏後に接合部せん断破壊する十字形部分架構を対象として、柱梁接合部の入力せん断力の算定法および接合部せん断余裕度と変形性能との関係について、当研究室で過去に実施した実験の結果を用いて検討した。得られた主要な結論を以下に示す。

1) 梁断面の引張領域内の引張合力とコンクリート圧縮合力との距離Jbeを、0.8D(ここで、Dは梁せい)で一定値として,梁端モーメントを距離Jbeで除して得た引張合力より、柱梁接合部入力せん断力を求めたところ,梁鋼材引張力から直接求めた接合部入力せん断力と最大層せん断力までは良好に一致した。

2) 接合部パネルの損傷が進展するとともに,接合部パネル内の圧縮域が拡大し,それにともない梁危険断面の圧縮域が増大したため,引張領域内にある引張合力と圧縮合力との距離Jbeは減少した。すなわち,十字形部分架構の支配的な破壊が梁曲げ降伏から柱梁接合部せん断破壊に遷移してからは,距離Jbeに一定値を使用することは適さない。

3) 接合部せん断余裕度と十字形部分架構の塑性率との関係をRC構造と比較すると,PRCおよびPC構造の変形性能は39〜48%劣っていた。これはプレストレスにより梁に圧縮軸力が生じているためと考える。また本研究で扱った試験体のコンクリート強度は56〜78MPaと高強度であったため,最大耐力以降の接合部パネルコンクリートの抵抗がRC構造の場合と比べて早期に低下したことも考えられる。


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