Review



ポール・パットン、テリー・スミス編『デリダ、脱構築を語る──シドニー・セミナーの記録』谷徹・亀井大輔訳、岩波書店、2005年
廣瀬浩司

〈目次〉
序文
第 I セミナー 視覚を脱構築する
1 盲目の視界のなかで――書くこと,見ること,触れること……
2 芸術家,投射体
3 メディアの亡霊たち
第IIセミナー 肯定的な脱構築
1 時間と記憶,メシア性と神の名前
2 肯定的な脱構築,遺産相続,テクノロジー
3 正義,植民地,翻訳
4 歓待,完成可能性,責任
5 公開討論
解説とキーワード
訳者あとがき

『デリダ、脱構築を語る』は一九九九年にシドニーでおこなわれたデリダを囲む公開討論の記録で、デリダ入門として勧められる一冊である。同様の記録はアメリカでもいくつか出版されているが、アメリカのそれが多くの場合、党派的と言ってしまったら言い過ぎならば、少なくともある種の枠付けと方向付けを感じさせてしまうのにたいし、この記録は真摯な問いかけにデリダがくつろいで答えているような印象を与え、安心して読むことができる。

とくに貴重なのは第一セミナー「視覚を脱構築する」において、芸術論・視覚論についてデリダにまとめて語らせていることであり、訳者たちもそれを敏感に感じ取って、メルロ=ポンティとの比較など、生産的で興味深い考察を加えている。もちろん第二セミナー「肯定的な脱構築」における「メシア性」「テクノロジー」「遺産相続」「正義」「歓待」などの主要問題についての議論もわかりやすいが、そのなかでもオーストラリアの「植民地的コンテクスト」に関する質問への応答が新鮮であった。訳者による「解説とキーワード」も有益である。

(『週刊読書人』第2619号、2006年1月6日)