セラピストにむけた情報発信



セラピストとの共同研究の紹介:ブラインドテニス(2)



2009年11月16日

前回に引き続き,視覚障害者向けのテニスを対象とした研究のご紹介です.今回は研究のコンセプトについてご紹介します.

2年間の研究計画において,私たちは3つの研究目標を設定しています.

第1の目標は,ブラインドテニスとは何かということを,フォアハンドストロークの動作を通して伝えるということです.ちょうど1年前の私のように,ブラインドテニスという障害者スポーツがあること自体を知らない人が多いように思います.従って研究テーマを選択する際は,単に研究として面白いということだけでなく,ブラインドテニスの存在を研究領域の人たちに認知してもらうきっかけとなるかどうかについて,意識をしています.

視覚情報が利用できなければ,ボールの軌道を遠方から知覚して予測的に動作を修正することが,非常に困難と予測されます.このような状況でボールを正確に打つことを目指した結果,ブラインドテニスの熟練者はどのような動作を選択することになるかについて,3次元動作解析を用いて明らかにしようとしています.東京工業大学の福原和伸さんが中心となって,研究が進められています.

第2の目標は,バウンドするボールの位置を,選手がどの程度正確に知覚しているのかについて明らかにすることです.ブラインドテニスでは,相手がボールを打ってから3バウンド以内にボールを打ち返すことが求められます.私たちの研究では,ボールの落下位置やボールの音の性質について様々な条件を設定し,ボールが2バウンドした位置を参加者に判断してもらい,その正確性について検討します.参加者としてブラインドテニスの熟練者,初心者,および晴眼者に協力してもらうことで,熟練者グループの正確性が,他のグループとどの程度優れているか,また熟練者の正確な知覚は,ボールの音の性質や落下位置の影響を受けるかについて検討します.愛知教育大学の青山裕美さんが中心になって研究が進められています.一部の成果は,今週末に開催される日本スポーツ心理学会第36回大会で発表予定です

第3の目標は,ブラインドテニスに習熟することが,日常生活における安全な空間移動にも貢献するかについて検討することです.視覚情報が利用できない状況で日常空間を移動することには,大きな恐怖感を伴います.従って,全盲者が空間を移動するということには一定の制約が出てきてしまいます.こうした制約は,知覚運動経験を通して身体図式を精緻化することを妨げるため,全盲者の身体イメージが晴眼者に比べて不正確になるなど,様々な問題の原因となっていると考えられています.

ブラインドテニスでは,バトミントンコートの大きさの空間をダイナミックに動きまわる,非常に運動量の多いスポーツです.加えてブラインドテニスでは,ボールの軌道をバウンド音から知覚して,ボールを打つという,非常に難しい知覚運動制御を獲得することが求められます.私たちの研究では,こうした難易度の高い知覚運動制御を習得すること,結果として日常生活にも波及するのではないかと考えています.もしこのことが実証されれば,障害者スポーツ自体の意義もアピールすることにもつながるため,研究遂行における重要ポイントの1つと位置付けています.研究では,ブラインドテニス選手の姿勢制御や歩行の基礎的な特性を,テニス経験のない視覚障害者と比較することを検討しています.首都大学東京の信太奈美先生,池田由美先生が中心となって研究が進められています.

11月14日(土)に,首都大学東京南大沢キャンパスに3名の選手をお招きして,フォアハンドストロークの3次元動作解析の測定をおこないました.データの分析はまだ先の検討となりますが,とても印象深い体験でしたので,次回,その様子をご紹介したいと思います.




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