セラピストにむけた情報発信



歩行中の接触に見られる左右差と疑似的空間無視:
実は左接触有意?(Hatin et al. 2012)(その2)

 


2013年9月30日

今回は前回の続きとして,身体幅ギリギリの狭い隙間を体幹の回旋なしで通り抜ける際に,従来指摘されてきた右接触傾向とは真逆の左接触がなぜ生じたのかについて,その考察を紹介します.

Hatin氏が考察の中で挙げた可能性は以下のようなものです.

  • 隙間の設定条件が結果に大きく影響する.広い部屋の中に設置するか(隙間幅を規定する参照情報が周辺にない),廊下などの通路に設置するか(廊下の幅を参照情報として使えるかもしれない)といった条件の違いが,研究間の違いを生み出す.
  • 疑似的空間無視が指摘するような空間認知の左偏倚があると仮定すると,左偏倚は歩行軌道の左偏倚を誘発するため,左偏倚が起こる.
  • 疑似的空間無視に関連する研究に寄れば,注意が上方視野に向けられれば空間認知が左偏倚し,下方視野に向けられれば右偏倚すると言われている.研究間でこうした上下方向の注意の向け方が発生したかもしれない.

あくまで個人的な印象ですが,確かにいずれの可能性も良く考えられてはいるものの,今回の現象の説明要因であるという確固たる根拠がありません.おそらくこの論文が雑誌にアクセプトされたのは,こうした可能性の提示が新たな研究を創発されるポテンシャルを持っていると評価されたからなのだろうと思います.



むしろこの研究は,本来ならば主たる成果であるはずたった,「歩行中の接触と疑似的空間無視の間には明確な関係が見られない」に注目すべきと思います.なぜなら,この研究は,「歩行を中心とした移動行動を支える空間認知は,座位・上肢動作における空間認知と同一のものか?」という議論に有益な情報を与えるからです.

もし両者の間に明確な関係がないとすれば,半側空間無視患者が歩行中に接触してしまう現象は,必ずしも半側無視だけで説明されるものではない,ということになり,接触防止を考える上で,新たな視点を与えることになるでしょう.

こうした臨床的意義も踏まえ,私たちの研究室でもこのテーマについてはもう少し深く追及していきたいと考えています.



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