セラピストにむけた情報発信



歩行中の接触に見られる左右差と疑似的空間無視:
実は左接触有意?(Hatin et al. 2012)(その1)

 


2013年9月24日

身体幅ギリギリの狭い隙間を通り抜ける際に,体幹が回旋できないとすれば,左右のどちらか一方を接触してしまうかもしれません.かつてオーストラリアのNicholls氏のグループは,健常者を対象者とすると極端な右接触傾向が起きると報告しました.

今回ご紹介するのは,従来指摘されてきた右接触傾向とは真逆の現象,すなわち左接触傾向を報告した論文です.

Hatin B et al. The relationship between collisions and pseudoneglect: is it right? Cortex 48, 997-1008, 2012

ここで取り上げる問題は,私たちの研究室でも真剣に取り組んでいる問題の1つであります.詳細はこちらをご覧ください

またこうした接触の左右差の背景には,健常者の空間認知がわずかながらに左偏倚しているという,疑似的空間無視(Pseudoneglect)があるのではないかという指摘があります.疑似的空間無視についてはこちらをご覧ください




当初,Hatin氏らの研究の目的は,本当に歩行中の右接触は疑似的空間無視に起因するのかを検証することにありました.

疑似的空間無視は①加齢によって減衰することや,②左右のいずれかに注意の手掛かりを与えると,注意がそちらに引っ張られる,といった現象が確認されています.もし歩行中の接触が疑似的空間無視に起因するなら,やはり加齢や注意の手がかりの影響を受けるだろうと予測したわけです.

ところが実験の結果,頭を悩ませる結果が出てきました.

2つの実験のいずれにおいても,有意な“左接触”傾向が見られたのです.いうまでもありませんが,当初想定していた右接触傾向とは逆の結果です.

加齢や注意の手がかりの効果が認められなかったという結果などから,当初の主目的であった接触と疑似的空間無視との関係については,比較的にクリアーにそれを否定するデータでした.しかしながら,予想していなかった左接触傾向が見られたことで,この論文の重要なポイントは,なぜ先行知見と同じパラダイムを用いたのに逆の結果が出たのかを考察することに切り替わりました.

少し長くなりそうですので,続きは次回ご紹介します.もしアクセス可能な環境があれば,ご自身で原著論文に当たってみて,著者がどのような考察をしているか読解してみるのも良いですね.

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