セラピストにむけた情報発信



ビデオカメラの映像記録に基づく日常環境での転倒の実態調査
(Robinobitch et al. 2013)

 


2013年7月5日


前回このコーナーでISPGRの学会報告をした際,カナダのStephen Robinobith教授のキーノートレクチャーの内容について紹介いたしました.

今回のページでは,この内容を詳細に記した論文についてご紹介いたします.

Robinobitch SN et al. Video capture of the circumstances of falls in elderly people residing in long-term care: an observational study. Lancet 381, 47-54, 2013


この調査では,いわゆるケアセンターのダイニングルームや廊下に計216台のビデオカメラを設置し,転倒が起きた場合にその状況をビデオ分析により把握しようというものです.

ケアセンターのスタッフから転倒のレポートがあがったら,その転倒が撮影できたビデオの映像を分析し,転倒の状況や原因を複数調査者によって分析していくという方法が取られました.結果として,130名の対象者による227名の転倒を記録することができました.

分析の結果,転倒の原因として最も多かったのは,不正確な体重移動(incorrect transfer or shifting of bodyweight)であり,ついでつまずきや接触といった要因があがりました.

つまずきや接触は,環境とのインタラクションの中で引き起こされるもの,すなわち外的要因の存在により引き起こされます.これに対して「不正確な体重移動」は,そうした外的要因がないにもかかわらずバランスを崩してしまう状況を指しています.

転倒が起こっている状況を分析してみると,歩行中,座位の瞬間,立位時に転倒が多く見られました.

この調査は,その方法そのものが画期的です.実験的な研究でもなく,質問紙に基づく研究でもない方法で,日常環境に起こる転倒の実態を捉えようという試みは,誰でも簡単にできるわけではなく,貴重な資料と思います.

この論文は上司・今中教授の院生である桜井良太氏に紹介してもらいました.



来週からポルトガルのリスボンで開催される国際生態心理学会(ICPA)に参加してきます.学会の様子は7月16日以降にこのコーナーにてご紹介する予定です.

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